なぜ川淵三郎氏は「ずっとリスペクトしてきた」NBA八村塁の協会とホーバスHC批判発言に「断固として許せない」と激怒したのか?
日本バスケットボール協会(JBA)の川淵三郎前会長(88、日本サッカー協会相談役)が21日、東京都内で行われた「ジャパン 2024 タスクフォース」会議後の記者会見で、NBAプレーヤーの八村塁(26、レイカーズ)が男子日本代表の強化方針やトム・ホーバス・ヘッドコーチ(HC、57)の続投に苦言を呈した件に対して「許されるものではない、というのが僕の考え方」と問題提起した。現在、JBAは八村の代理人との協議を続けている。
「八村選手をずっとリスペクトしてきた」
畏敬の念を抱いているからこそ、口調は熱く、そして厳しかった。
東京都内で行われた、JBAの改革を主導する特別チーム「ジャパン 2024 タスクフォース」会議後の記者会見。JBAの前会長で、約10年にわたってタスクフォースのチェアマンを務めてきた川淵氏が、八村の件について初めて言及した。
「あれが出た後に多くの方が僕のところに取材に来ましたけど、言葉足らずでいろいろと批判されるのも嫌だから、という理由でいっさいコメントしませんでした」
八村の件で沈黙を貫いてきた理由をこう説明した川淵氏は、さらに「これは日本協会とは関係なく、僕個人の意見ですよ」と断りを入れたうえで語気を強めた。
「はっきり言って許されるものではない、というのが僕の考え方です。最低限、不満とか何かを言うのは本当に選手個人の自由ですけど、日本協会そのものを、そしてヘッドコーチそのものを批判するのは、それはプレーヤーズファースト(選手第一主義)とは何も関係ない。僕としては断固許せない話です」
八村は昨年11月のレイカーズの試合後に、男子日本代表の現状に対して、JBAの強化方針にプレーヤーズファーストの精神が見られないと苦言を呈した。
「僕も日本代表としてずっとやってきたなかで、日本代表のやり方というか、そういったところに僕としてはちょっと嬉しくないところがあって」
代表強化と日本バスケットボール界の未来を考えてきた八村は、JBAの目的が商業的な部分に重きが置かれているのではないかと指摘。さらにこう続けた。
「僕たち男子選手のトップのプレーヤーたちをわかっていて、プロとしてもコーチを務めた経験のある人がコーチになってほしかったので。今回このようになってしまったのは、僕としても残念だと思っています」
2028年のロサンゼルス五輪へ向けて、女子日本代表を率いて2021年の東京五輪で銀メダルを獲得した実績をもつ、男子日本代表のホーバスHCの続投が決まった直後。タイミング的にも内容的にも発言を介して大きな衝撃を与えた八村と、川淵氏は実は面識がある。話は9年前にさかのぼる。
「八村選手は2016年9月のBリーグのオープニングゲームのときに、僕のところに『川淵さん、Bリーグを作っていただいてありがとうございました』と一人で言いに来たんですよ。ちょうど高校を出て大学に入ったとき。若い選手がこんなことを言うのかと感心した思い出があって、あれから八村選手をずっとリスペクトしてきました」
宮城県の明成高から米ワシントン州のゴンザガ大へ入学し、将来へ向けて大きな期待を背負っていた八村の言動に感銘を受けた。だからこそ、あえて厳しく言及した。
「今回の問題に関しては、トム・ホーバスが男子を指導した経験がない、世界のバスケットボールを知らないと全面的に彼の能力を否定するのは、いまの選手の気質が僕らの時代から大きく変わっているとしても、人間性やバスケットボールに対する指導性をないがしろにするような話をしていいと思っているのか、という点で不思議で仕方がない。何よりも、理事会で決まったヘッドコーチがダメだというのは、日本バスケットボール協会の決定は無視して、もう何を言ってもいいんだと思っているのかと」
現状はどうなっているのか。対応に追われたJBAは担当職員をアメリカへ派遣する方針を明かし、NBAで6シーズンにわたってプレーした渡邊雄太(30、千葉ジェッツふなばし)は「悪者は一人もいない」と、間を取りもっていく姿勢を明かしている。
「JBAやトム、塁とコミュニケーションを取って、日本代表をよくしていきたい」
記者会見に同席したJBAの三屋裕子会長(66)は、八村の件のその後に対して、次のように語るにとどめている。
「これはずっと言っていますけど、(NBAの)シーズン中はご本人と連絡をしないという取り決めがありますので、いまはエージェントの方と話をしております」
この日の会議をもって「ジャパン 2024 タスクフォース」は解散した。
男子の国内リーグが分裂状態にあった2014年秋。JBAが国際バスケットボール連盟(FIBA)から資格停止処分を科されたのを契機に、翌2015年に発足した特別チームは男子リーグの統一、JBAのガバナンス強化、そして男女日本代表の強化体制構築の課題をいずれも解決したとして10年間におよぶ役目を終えた。
2015年から2年間務め、三屋会長にバトンをつなげたJBA会長に加えて、タスクフォースのチェアマンとしても尽力してきた川淵氏は、Bリーグを経由したNBAの日本人選手が河村勇輝(23、グリズリーズ)の一人だけという状況を受けて、発展を続けるBリーグの将来についてもこう言及している。
「わかりやすい形でいえば、NBAで何人の日本人選手が活躍するかがひとつの指標となる。河村選手がBリーグからいったが、4人、5人と出てくるリーグになってほしい」
そして、2019年6月のNBAドラフトでウィザーズから1巡目9位指名を受けて入団し、2022-23シーズンの途中からはレイカーズでプレーする八村は、言うまでもなく日本バスケットボール界をけん引していく。八村の存在の大きさを理解しているからこそ、大きな役目を終えた川淵氏の発言も熱を帯び、歯に衣着せぬ内容となった。
(文責・藤江直人/スポーツライター)