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9回にダウン応酬があった。王者の堤が比嘉を倒して主導権を奪い返す(写真・山口裕朗)
9回にダウン応酬があった。王者の堤が比嘉を倒して主導権を奪い返す(写真・山口裕朗)

日本ボクシング史に残る堤聖也vs比嘉大吾のWBA世界戦の死闘裏側⓵…ベルトの行方を左右したダウン応酬ラウンドの「10―9」採点

プロボクシングのWBA世界バンタム級タイトルマッチ(24日・有明アリーナ)の“死闘”がファンの間で大きな感動を呼んでいる。王者の堤聖也(29、角海老宝石)と元WBC世界フライ級王者の比嘉大吾(29、志成)の“同級生マッチ”は9ラウンドにダウンの応酬がありドロー。王者の練習に裏付けされたスタミナと執念、そして挑戦者の“沖縄魂”が激突した名勝負の明暗を分けたのは何だったのか。2回に分けてお伝えする。

 

同級生の2人は健闘を称え合った(写真・山口裕朗)

 野木丈司トレーナーは深夜に比嘉を自宅まで送り届けた。
 一夜明けて「おでこがたんこぶになっているだけで大丈夫です。一応、CTは取りにいきます」との連絡が入った。
 堤は、互いにスパー相手を務めるなど、国境を越えた親交のある元世界王者、ジェーソン・モロニー(豪州)をタコ焼きパーティーに招待した写真をSNSにアップした。モロニーは那須川天心に0-3判定で敗れた。堤の友への優しい“おもてなし”だった。
 2人は、日本ボクシング界史に残るような死闘を戦った。早くもファンの間からは「年間最高試合」の声があがる名勝負だった。
 勝者も敗者もない。だが、ドロー防衛で堤はベルトを守り、比嘉は、最長ブランク記録となる6年10か月ぶりの王座返り咲きを逃した。
最終ラウンドのゴングが鳴ると、2人はどちらからともなく近寄り抱き合った。比嘉が「ありがとう」と伝え、堤が「強かった。ありがとう」と返した。堤とコンビを組んできた石原雄太トレーナーは、野木トレーナーにこう声をかけたという。
「負けました。あんなジャブが上手いとは思っていませんでした」
 野木トレーナーも「勝った」と手応えがあった。
「当たっているパンチは勝っていた。理想をいえば後半もっと出たかったが」 
 米国から来た著名リングアナのジミー・レノン・ジュニア氏が、まず「ユナニマスデシジョン(3-0判定)…」とアナウンスし始めたのを聞いたときに、その思いは確信に変わり始めたが、結果は三者が共に114-114のドロー。
「甘くないですね」
 名トレーナーは天を仰いだ。
「手ごたえはそんなになかった。比嘉がチャンピオンになっていてもなんも文句がいえない状況だった。前回と同じ引き分け。クビがひとつつながった」
 右目上の傷が痛々しい堤は、ベルトを保持した気持ちを素直に明かした。
 一方の比嘉は、「覚えておりません、記憶が飛んでいます。入場したことと前半は覚えていますが…」と苦笑いを浮かべた。
 高校時代に九州で2度対戦して2度敗れ、プロでも2020年に対戦してドローに終わるなどしてきたライバルであり同級生でもある“友”をこう称えた。
「精神的に強いし、気持ちも強い。考えてみれば、オレも気持ち強いっすね(笑)。いい試合していましたね」
 “沖縄の倒し屋”の記憶をぶっ飛ばした運命の9ラウンドーー。
 そこがベルトの行方の明暗を分けた。
 2分になろうとする頃、堤の右のアッパーの打ち終わりに放った比嘉の左フックが、顎をとらえダウンを奪ったのだ。打たれ強いことで定評のある堤は、これがスパーリングも含めて人生初ダウン。
 だが、その瞬間、堤は笑っていた。
「ふわっという感じで、ゆっくりと落ちた。これがダウンかと。ちょっとぞくぞくした。そのあと、冷静にあせらずやれた。倒される想定はしていた」
 堤は膝をつきカウント8まで回復を待った。

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