
「そんなに塗ったら反則やん」那須川天心に敗れた元世界王者モロニーの大量ワセリン使用問題を“ロマチェンコと戦った男”が問題視…「天心はクセを盗まれていた」の指摘も
プロボクシングのWBOアジアパシフィックバンタム級王者、那須川天心(26、帝拳)に大差の判定で敗れた前WBO世界同級王者のジェーソン・モロニー(34、豪州)が顔にワセリンを塗りたくった“反則行為”が波紋を広げている。元OPBF東洋太平洋ライト級王者で3階級制覇王者のワシル・ロマチェンコ(37、ウクライナ)と戦った男として知られる中谷正義氏(35、大阪・吹田の中谷ボクシングフィットネスクラブ会長)がXで指摘してバズった。中谷氏にモロニーの狙いと陣営に「アンフェア」と疑問を呈された判定問題について意見を聞いた。
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「そんなに塗ったら反則やん」
ライブ配信したAmazonプライムビデオが天心との最終ラウンドに向かうモロニーの顔面の映像を大きく抜いた瞬間、中谷氏は、思わず叫んだという。クリームのようなワセリンが顔面全体に塗りたくられていたのだ。
中谷氏は、その写真と共にXに「モロニーのワセリンの量 おかしくないか。笑」と投稿。76万件以上のアクションが付くほど反響を呼んだ。
「あそこまで塗ったらダメですよ。普通は目の周りと額付近には塗りますが、ほっぺたから、顎まで顔全体に塗っていましたもん。反則ですよ。本来、油脂のワセリンを塗るのは、カットの防止なんです。ただモロニー陣営の狙いとしてはパンチのダメージの軽減があったんでしょう。6ラウンドくらいから打ち合いになって天心のパンチをもろに浴びるシーンが目立ってきたので、セコンドが心配になって塗りまくったんでしょうね」
もう一度、試合映像を見直すと、序盤は、そこまでワセリンを塗っていなかったが、6ラウンド終了後のインターバルからその量が増えだして、最終ラウンドの前にその量はピークに達した。まるで顔面パック状態。
その効果があったのか、天心は7ラウンドには、モロニーが顔を大きくのけぞるほどの強烈な右アッパーをクリーンヒットさせるなどしていたが、ダウンシーンは一度も演出することができなかった。
日本薬局方によると(白色)ワセリンとは「「石油から得た炭化水素類の混合物を脱色して精製したもの」。肌の乾燥を防ぐために使われる油脂クリームだが、本来は中谷氏が指摘するようい目の周りを中心にカットを防止するために使用される。
ただJBCルールの第5章「試合管理」の第96条(薬品等の使用禁止)では「「ワセリンその他の油脂類は、最小限の適当な防護処置と認められる場合に限り、スーパーバイザー、レフェリーの許可を得て使用することができる」と定められている。モロニーが顔面パックのように塗りたくったワセリンの量は、明らかに「最小限の適当な防護措置」からは逸脱している。
本来であれば、コーナーを出てくる段階で、スーパーバイザー、インスペクター、あるいはレフェリーが注意し、セコンドにワセリンの拭き取りを指示しなければならない。
中谷氏もこう指摘した。
「僕の現役時代は対戦相手もそうですが、他の試合などを見てもあそこまで塗るのは珍しいですよ。実は、日本製と外国製ではワセリンの質が違っていて、日本製のものは、あんな風に固まりにはならず、肌に浸透するように流れます。でも外国製は固いので、ああやって固形物が顔に残るんですよね。そもそもインスペクターやレフェリーが注意しなければいけないけれど見過ごしていましたね」
帝拳ジムのOBである中谷氏は23戦20勝(14KO)3敗の戦績を残した元OPBF東洋太平洋王者。2019年にIBF世界ライト級王座挑戦者決定戦でのちに3団体統一王者となるテオフィモ・ロペス(米国)に判定で敗れたが、好勝負を演じ、2021年には米ラスベガスで3階級制覇王者の“精密マシン”ロマチェンコ挑んだ。9回TKO負けを喫したが、世界最高峰のボクサーに一人に立ち向かった姿はファンの共感を呼んだ。2023年に引退。昨年9月に大阪の吹田市にアマチュアジムの「中谷ボクシングフィットネスクラブ」をオープンした。
では、その大量ワセリンの効果は実際どうなのか。
「正直な話、ダメージを軽減する効果はありませんよ(笑)。潤滑油のように肌を滑らせてカットを防ぐ効果はありますが、どれだけ塗ってもパンチのダメージは変わりません」