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最終ラウンドに拳四朗がユーリに逆転TKO勝利した(写真・山口裕朗)
最終ラウンドに拳四朗がユーリに逆転TKO勝利した(写真・山口裕朗)

壮絶決着!なぜ拳四朗は最終回に「覚悟を決めた前進」を続けたユーリに逆転TKO勝利できたのか…“名参謀”の頭脳的戦術変更が2階級WBC&WBA統一王者誕生の転機

 プロボクシングのWBC世界フライ級王者の寺地拳四朗(33、BMB)と、WBA世界同級王者、ユーリ阿久井政悟(28、倉敷守安)の史上3度目の日本人同士の統一戦が13日、両国国技館で行われ、寺地が最終12ラウンド1分31秒で逆転TKO勝利。2階級2団体統一に成功した。ユーリの「覚悟を決めた前進」に苦しんだ寺地陣営は8ラウンドから戦法を変えてそれが功を奏した紙一重の勝利だった。試合後、リング上で一階級あげてスーパーフライ級のWBC世界王者、ジェシー“バム”ロドリゲス(25、米国)との対戦を熱望した。

 

11ラウンドまでのジャッジペーパー。拳四朗が負けていた

 最終ラウンド前にジャッジの2人は105-104でユーリを支持していた。残り1人は106-103で拳四朗である。つまりこのラウンドをユーリが取ればユーリが統一王者。たとえ拳四朗が取ってもドロー。ユーリは立ってさえいれば、黒と赤のWBAベルトを守ることができた。
「どっちがポイントを取っているか、まったくわからなかった。最後は気持ちで勝ちにいった」
 拳四朗がその時のコーナーでの心境を明かす。
 “名参謀”加藤健太トレーナーも「分が悪い方で競っている感覚があった」という。それでも拳四朗は距離をとりジャブから入った。
 1ラウンドから「覚悟を決めた前進」を続けてきたユーリは、このラウンドも気力を振り絞ってワンツーを打ち込んでくる。11ラウンドに拳四朗の右を浴び、鉄壁のブロッキングに隙が出始めていた。蓄積されたダメージはあるはずだが、ユーリはひるまない。
 だが、そこに拳四朗の右ストレートが炸裂した。
 顎を引き、絶対に下がらなかったユーリの腰が浮き動きが止まり後ずさりした。
「感触はあった。どういう流れで当たったかわからないが、チャンスだと思い気合でいった」
 拳四朗はラッシュ。ボディにパンチを集めると、この試合初めてユーリがクリンチで逃げた。拳四朗はさらに左右のパンチを繰り出しフィニッシュにかかる。両国を埋めた7500人のファンが総立ちになった。ユーリが反応できなくなっているのを確認した中村レフェリーが割って入り試合をストップした。
 拳四朗は、加藤トレーナーと抱き合ったが、次の瞬間、加藤トレーナーはユーリの元へ駆け寄った。三迫ジムの横井龍一トレーナーもユーリを支えに走った。戦いが終われば敵ではない。拳四朗との出稽古のため何度も三迫ジムに足を運んだ旧知のユーリを誰よりも心配していた人たちの心温まるいいシーンだった。
 ユーリは崩れるようにそこにしゃがみこんだ。号泣していた。
「ただただユーリ選手はほんとに強かったです。気持ちの勝負になってなんとか勝てた。もっと練習して強くならないとダメだなと思った。加藤さんあっての勝利。ほっとしています。採点は負けていた?危なかったと思うし、最後、後悔なくいけてよかった」
 薄氷の逆転TKO勝利をつかんだ拳四朗は、勇気ある敗者を称えた。
 史上3度目の日本人同士の統一戦の名に恥じぬ互いの魂がぶつかりあった死闘だった。
「ただでは終わらん。食ってやろうという思い。(気持ちは)作れた」
 計量後にユーリが語った覚悟にウソはなかった。
 6月に第三子が誕生予定の身重の妻は岡山から上京できなかったが、生まれてくる息子を「チャンピオンのまま迎えたい」の思いが彼を奮い立たせた。
 1ラウンドのゴングと同時に強烈なプレスをかけてきた。ジャブ、ワンツー、ボディにもパンチを散らす。面食らった拳四朗は、2ラウンドにテンポを変えてジャブから反撃を試みるが、まともに食らってもユーリは下がらない。3ラウンドにはユーリの右ストレートが拳四朗の顔面をとらえた。拳四朗は、ボディから突破口を開こうとするが、ユーリの前進を止めることはできなかった。
 5ラウンドを終えるとコーナーで「こっちのペースになってきた」とユーリはセコンドに手応えを伝えている。
 拳四朗は迷っていた。

 

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