
なぜ“最強”中谷潤人と“番狂わせ男”西田凌佑のバンタム級2団体統一戦が決まったのか…「ベルトを返上してでも」魂の直訴と所属ジム会長の男気…「井上尚弥戦への踏み台にはならない」
プロボクシングの「PrimeVideoBoxing13」が6月8日に有明コロシアムで開催されることが18日、都内の東京ドームホテルで発表された。メインはWBC世界バンタム級王者の中谷潤人(27、M.T)とIBF同級王者、西田凌佑(28、六島)の待望の統一戦。セミファイナルではWBC同級1位、WBA、WBO2位、IBF4位にランキングされている那須川天心(26、帝拳)が世界前哨戦として、WBA同級6位のビクトル・サンティリャン(29、ドミニカ共和国)と対戦する。また世界選手権金メダリストの坪井智也(29、帝拳)がプロ2戦目でバン・タオ・トラン(32、ベトナム)と天心が返上したWBOアジアパシフィックバンタム級王座決定戦に挑む。いずれも注目のカードだ。
「お金もうけのためにやっているわけじゃない。選手の夢を」
日本人が4つのベルトを独占しているバンタム級で待望の統一戦が決定した。リング誌が定めるパウンドフォーパウンドで8位に入り、来春に東京ドームで、スーパーバンタム級の4団体統一王者、井上尚弥(大橋)への挑戦が計画されている中谷と、昨年12月15日の初防衛戦後に、その中谷との対戦を訴えていた西田の2人だ。
「統一戦はフライ級時代から口にしていた。ようやくさせてもらえることに感謝して全力で挑んでいきたい。こういう試合を望んでいた。久々の日本人選手との試合。気持ちをしっかりとぶつけていきたい」
中谷がそう言えば、西田もこう決意を口にした。
「指名試合の話もあり、統一戦か、どっちかわかんない状況だったが、タイトルを返上してでも挑戦したいと思っていた。勝っても負けても、これが最後になるくらいの気持ちで挑もうと思っている」
中谷が2月24日に有明アリーナで同級6位のダビド・クエジャル(メキシコ)を3回KOに沈めた試合後のリングに西田が上がっていた。2人はそこでエールを交換していたが、西田にはIBFからホセ・サラス・レイエス(メキシコ)との指名試合を指令されていて統一戦の交渉は難航していた。マッチメイクを任されている帝拳の本田明彦会長が動いて実現にこぎつけた。
西田が所属する六島ジムの枝川孝会長は、昨年12月の防衛戦後に「せえへん。(中谷は)井上尚弥とやる言うてんねんから」と発言していた。カモフラージュの発言だったそうだが、不利を予想される中谷戦にGOサインを出した理由をこう熱弁した。
「指名試合でもいいとも思っていた。西田の場合は減量というポイントもある。何いうても、本人が口に出して、中谷チャンピオンとやりたい、と防衛戦後から言っていた。なかなか自分で意思表示を“こうや”という人間ではないのですが、それでもやりたいというんだから、本気なんだろうと」
“参謀”の武市晃輔トレーナーと相談したところ「モチベーションのない指名試合をやっても負ける可能性がありますよ」と中谷戦をプッシュされたという。
「最悪(ベルトを)返上してでも中谷チャンピオンとやりたいという一心やからね。ええ格好を言うわけじゃないけど、ウチのジムは、お金もうけのためにやっているわけじゃない。選手に夢を与えて選手がやりたいことをやらす方針。ほんまはもっと人気が出て、いっぱいお金を稼いでくれたらいいですけどね。勝つか負けるかはわからない。だってめちゃくちゃ強いチャンピオンに挑戦するわけですから。そこをやりたいという西田を抑えられるあれはまったくない。本人がやりたいなら交渉するのが、私の仕事」
枝川会長はプロ経験のない異色のジム経営者。私財を投じて情熱とアイデアで、世界チャンピオン誕生の夢を追い、WBA世界ス―パーフライ級王者の名城信男(現在、近大ボクシング部監督)を生み出したが、2人目の世界王者の西田を作るまでには、時間がかかった。防衛を重ねて力をつけさせたいのが本音だろうが、「世界王者ですが、4人いて自分は一番じゃない。それが気になる。一番強い選手に勝ちたい」という西田の訴えを聞き入れた。