なぜ拳四朗は衝撃の7回TKOでWBC&WBAの2団体統一に成功したのか…京口を2度ダウンさせた“奥義”「消える右」とは?
プロボクシングのW世界戦が1日、さいたまスーパーアリーナで行われ、メインのライトフライ級の2団体統一戦では、WBC同級王者の寺地拳四朗(30、BMB)がWBA同級スーパー王者の京口紘人(28、ワタナベ)を7回2分36秒TKOで下してベルトの統一に成功した。1か月前の練習で編み出した“奥義”「消える右拳」がKOパンチだった。セミファイナルではWBO同級王者のジョナサン・ゴンサレス(31、プエルトリコ)が挑戦者の岩田翔吉(26、帝拳)に3-0判定でタイトルを防衛。ゴンサレス、拳四朗共に3団体統一戦を熱望、ビッグマッチの実現が現実味を帯びてきた。
手に汗握る5ラウンドの壮絶な攻防
2人の勇者が格闘技の殿堂を熱狂に包んだ。
5ラウンドだ。鮮烈のワンツーで拳四朗がダウンを奪う。試合後、加藤トレーナーは、「このワンツーで倒すと思っていた」と打ち明けた。
劇画「北斗の拳」風に言えば奥義「消える右拳」とでも呼べばいいのか。
実は、試合の1か月前に練習の中で、突如、拳四朗が繰り出した「消えるワンツー」だった。左を出す際に、踏み出したステップと、パンチのタイミングに“ズレ”が起き、それがフェイントとなって、相手のガードが一瞬、先に動く。そこから、0コンマ数秒の間に、内に動けば外、外に動けば内と、右ストレートを打ち分けるのでパンチが消えるのだ。
2人は、この「消えるワンツー」を計算して打てるように磨いた。条件スパーと言われる制限をつけた練習で、加藤トレーナーはわかっているのに、このパンチを避けることができず、何度か被弾したという。
この時もステップと左に騙された京口のガードが、一瞬、内に動き、拳四朗は、外から空いた場所に強烈な右ストレートを叩き込んだ。序盤から被弾し続けていたジャブのダメージの蓄積もあったのだろうが、京口はロープに吹っ飛ばされるようにしてダウンした。
京口陣営の小林トレーナーは「右は真っすぐ来るものと思っていたが、内、外と打ち分けるのが上手かった」と、その「消える右拳」に対応できなかったことを明かした。
拳四朗はラッシュをかけた。日本人同士の統一戦は、2012年に、当時、WBC世界ミニマム級王者だった井岡一翔(現志成)がWBA世界同級王者の八重樫東(大橋)を判定で破って以来10年ぶり。インパクトを残したいという拳四朗の“欲”が「倒したいという焦り」を生む。
「記憶がとびとび」というダメージを受けながらも、京口はガードを固めて耐えて大反撃を見せた。打ち疲れガードが下がり動きが止まった拳四朗の顔面を京口の右ストレートが捉えてロープに追い詰めた。加藤トレーナーが、「(TKO負けの)矢吹戦が一瞬頭をよぎった」というほどのピンチである。
「トレーニングしていたからこそ出た反撃」とは京口の回想。
アマ時代に1勝3敗。互いに世界王者になって、統一戦を呼びかけるも、拳四朗は、防衛回数記録へ向かい見向きもされなかった。海外で2度防衛。リング誌のベルトを贈呈されるほどの評価を勝ち得て高額ファイトマネーで実現した注目ファイトで簡単に敗戦を受け入れるわけにはいかなかった。
「子供の頃から、何をやっても器用だったわけじゃなく、人一倍、頑張って結果を残した。できないからやらないのではなく、できるまでやる。それを証明したかった」との思いもあった。
だが、危機をゴングに救われた拳四朗はインターバルで落ち着きを取り戻す。
「いっちゃいました」
そう言う拳四朗を加藤トレーナーは静かになだめた。
「いいんだよ。プランは間違っていないんだから。よく見て戦おう」
スタミナのロスとダメージ。6ラウンド、拳四朗は、下がらずに応戦したが、京口が出てこれないとわかって3分間を回復に費やした。
「来ると思ったが見合いになって助かった」と加藤トレーナー。
そして7ラウンドに、もう一度、ドラマを作る。