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那須川天心が右のフックのカウンターでフラッシュダウンを奪う(写真・山口裕朗)
那須川天心が右のフックのカウンターでフラッシュダウンを奪う(写真・山口裕朗)

なぜ那須川天心はデビュー戦でKO決着できなかったのか…敗者の日本2位は「キレで倒すパンチ。今後はKOしていくんじゃないか」

 “神童”キックボクサー那須川天心(24、帝拳)のプロボクシングデビュー戦のスーパーバンタム級6回戦が8日、有明アリーナで行われ、日本バンタム級2位の与那覇勇気(32、真正)に3-0判定で勝利した。2回には右フックでダウンを奪い、ステップワークを駆使して、ほぼ被弾のない完勝だったが、KO決着はできなかった。陣営が倒すよりもディフェンス重視でストップをかけていたという背景と、動き過ぎてパンチに体重が乗らなかったことが、その原因。本人も「倒しきるパンチを磨く」と今後の課題を口にしたが、敗者は「今後はKOしていく」とその才能と可能性を認めた。JBC規約ですぐにタイトル挑戦というわけにはいかないが、合格点を与えた帝拳の本田明彦会長は「1年後には日本のトップになっている」と約束した。

 2ラウンドに右フックのカウンターでフラッシュダウンを奪う

 

 キック時代からの天心の定番入場曲、矢沢永吉「止まらないHa~Ha」が流れると1万2500人のファンで埋まった有明アリーナの空気が一変した。炎と火花が噴き出す派手な入場口に天心はいつものロングガウンではなくパーカーにダウンベストと言うスタイルで登場した。
 ゴングと同時にプレスをかけたのは与那覇だった。上体をふってボディから攻める。練り込んだ天心対策だ。
「それが一番の作戦でした。彼は目がいい。ならば動かないお腹の部分を打ち分けていこうというプラン」
 沖縄尚学高―東洋大のアマキャリアを経てプロで17戦を戦ってきた与那覇の戦術でも天心の動きは止められない。右へ巧みなステップを踏み自分の距離をキープしながら、ジャブを軸に、ワンツー、左ボディ、右フックと、多彩なパンチを打ち込んで与那覇を翻弄した。詰め寄られると腕を絡める絶妙のクリンチで日本バンタム級2位をコントロールしていく。
「攻撃はほぼ全部見えたかな。パンチはもらっていないし、ダメージもない。顔が命なんで。そこは(笑)」とは天心の回想。
 そしてラウンド間には、試合を通じて「キック時代からの癖。一度も座ったことがなかった」とコーナーの椅子に座らなかった。
「天心劇場」の第一幕は第2ラウンドだ。
 飛びつくようなトリッキーな左フックを放ってきた与那覇のそれを外すと同時に右フックのカウンターを一閃。タイミングのいい一撃を後頭部付近に浴びて与那覇は思わずキャンバスに手をついた。ダメージブローではなかったが、ダウンがカウントされる。
 天心は驚いたという。
「めちゃくちゃダメージがあったかと言えばそうじゃない。あれでダウンになるのか。これがダウンになるなら自分も気をつけないといけない」
 キックでは、こういうタイミングのダウンは、ほぼスリップと判定されるが、ボクシングでは立派なダウン。3ラウンドには、力を込めた左ストレート連を打して、与那覇の右目上を切り裂き、脇が空いているとみるや、右ボディをめりこませた。
 この夜の「天心劇場」のクライマックスは第4ラウンドだった。
 左ストレートがカウンターとなってヒット。動きが鈍くなった与那覇のその一瞬を見逃さない。ロープを背負わせ猛ラッシュ。なんと18連打。そのうち、少なくとも8発の右、左の強打が、綺麗に与那覇の顔面を捉えた。
「(ストップまで)もっていきたいなあと思った。ボクシングをよく見ててスタンディングでKOってあったんで。まとめて終わらせようと思ったが、止めてくれないので、マジかと」
 レフェリーは止めずに与那覇も耐え切った。
 5ラウンドはノーガードの挑発もしたが、スタミナは切れかけていた。それでも最終ラウンドに「倒したかった」と天心はネジを巻きなおそうとして、最後の30秒は足を止めて左を振りまわしたが、陣営から「無理に行くな」「今のままでタイミングを見ていこう」とストップがかかっていたという。本田会長が、その背景をこう説明する。

 

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