なぜ神宮で阪神の9回二死からのミラクル逆転劇が生まれたのか…“サトテル”の成功体験と大山激走…「アレの予兆」の声も
阪神が24日、神宮球場で行われたヤクルト戦に6-5で逆転勝利して4カード連続の勝ち越しを決めて連勝を4に伸ばした。1点を追う9回二死走者無しからシェルドン・ノイジー(28)のライトへの打球を照明が目に入った並木秀尊(24)が後逸して三塁打となり、一、三塁から佐藤輝明(24)が逆転の2点タイムリー二塁打を決めた。神がかっているようなミラクル勝利に「アレの予兆」という声まで出始めた。
ノイジーのライトを襲う打球を並木が後逸
ミラクル阪神だ。
1点を追う9回にヤクルトのマウンドには、この時点で防御率1.15だった守護神の田口。出塁を期待した近本、中野が連続の見逃し三振に倒れて二死となった。疑問が残るような球審のジャッジもあったが、誰一人としてあきらめるものは、阪神のベンチにはいなかった。野球はツーアウトから…古くて重い格言が、脳裏をかすめた。
「絶対回ってくると思って準備していました」
ヒーローとなる5番打者、佐藤の回想。
ノイジーのライト前を襲った打球がミラクルの序章だった。
前進した途中出場の並木は、照明が目に入り打球を見失った。突っ込んできた並木が触れることもできなかった打球が、外野へと転々とする間にノイジーが一気に三塁まで走ったのである。代走に植田が告げられ、4番の大山を迎えた田口は明らかに動揺していた。一転、細かいコントロールの制御が効かなくなった。カウント2-2からの勝負球のチェンジアップは、手を離れた瞬間にボールだった。逆転の走者となる大山はフルカウントから冷静に四球を選び、佐藤へとつなぐ。
「初球からどんどん積極的に行こうと思っていました」
「四球のあとの初球狙い」の原則。
ヤクルトバッテリーは、佐藤がウイークポイントとしていたインハイへストレートを投げ込んできたが、それを思い切り引っ張った。
佐藤は、母の日の横浜DeNA戦でも、4回に「四球の後の初球」を捉えて、満塁弾をライトスタンドへ叩き込んでいた。このときは、三嶋が投じたど真ん中の146キロのストレート。その成功体験が、佐藤に自信を植え付け、初球からバットを振らせたのか。
「絶対打つと決めていた」という快心の当たりはライト線を破った。
植田が同点ホームを踏み、一塁の大山までが、迷うことなく三塁を蹴り、左手を伸ばして、ホームへスライディングを決めた。ミラクルを演出した好走塁だった。
本来であれば、代走の場面。しかし、すでに島田、植田を使い、もうベンチには、小幡しか残っていなかった。「延長があったしな」。まずは同点からの延長を想定すると岡田監督も、代走は使えなかった。だが、大山はスタートした瞬間から、一度もスピードを落とすことなくホームへと激走した。難しい判断だったが、三塁コーチの藤本も迷わず右手を回した。大山のスタート、右中間を締めていた並木のポジショニングと肩を計算に入れたのだろう。
大山は、20日の広島戦でも、森下のレフト前ヒットで二塁からサヨナラのホームを駆け抜ける好走塁を見せていた。なぜか前進守備を敷いていなかったレフト西川の守備位置を頭に叩き込んでの激走。このときも藤本コーチが好判断で突っ込ませていた。
今季の阪神が徹底しているのが、守備、走塁、四球の3つ。
岡田監督の「1試合に1本のヒット1四球で3割打者や。裏を返せば、打者は、10回に7回は失敗するし、マー君の例はあるけれど、シーズンを無敗で終える先発も、抑えもおらん。でも守備、走塁に好不調はないんよ」との持論から来るもの。
ノイジーも大山も全力疾走した。劇的なミラクル逆転勝利を生んだのは、阪神に根付き始めている新しい風土である。