なぜ日本代表経験もないプロ8年目J1新潟MF伊藤涼太郎のベルギー1部クラブへの海外移籍が決まったのか?
J1のアルビレックス新潟は5日、MF伊藤涼太郎(25)がベルギー1部のシントトロイデンへ完全移籍すると発表した。クラブ間交渉が基本合意に達し、今後は現地でのメディカルチェックを経て正式契約を結ぶ。今シーズンの新潟で7得点4アシストと活躍しているプロ8年目の伊藤だが、過去に日本代表の招集されたこともなく、開幕前の段階では、J1リーグ戦の出場は通算11試合に留まり無得点だった。今季一気に大ブレークを遂げ、念願のヨーロッパ移籍を実現させたターニングポイントに迫った。
「過去の自分は、J1の舞台でなかなか活躍できずにいました。
8年目を迎えたプロサッカー人生で、待望のJ1初ゴールを決めてからわずか3か月。伊藤が紡いできたシンデレラストーリーの舞台が、一気にヨーロッパへ移る。
新潟の公式HPおよび公式ツイッター(@albirex_pr)は5日夕方に、伊藤のシントトロイデンへの完全移籍がクラブの間で基本合意に達したと発表した。伊藤はクラブを通じて、新潟に関わるすべての人々へ感謝の思いを伝えている。
「過去の自分は、J1の舞台でなかなか活躍できずにいました。そんな自分を新潟は迎え入れてくれて、出場機会をいただけたからこそ、海外クラブからのオファーが現実のものとなったと、感謝してもしきれない気持ちです」(原文ママ、以下同じ)
言葉通りに伊藤はJ1の舞台で結果を残せなかった。
今シーズンの開幕直前の段階で、J1リーグ戦における出場数がわずか11試合で、そのうち先発が2度。プレー時間の合計は約3試合分に当たる271分にとどまり、ゴール数も0だった。すべての数字が、伊藤がもがき苦しんできた軌跡を物語っている。
大阪市東住吉区で生まれ育った伊藤はセレッソ大阪U-15、岡山県の強豪・作陽高(現作陽学園高)をへて2016シーズンに浦和レッズへ加入。開幕戦でベンチ入りを果たし、後半途中から出場した名古屋グランパスとの第9節ではデビューも果たした。
浦和での活躍を経て、日本代表に入って海外へ、という青写真を伊藤は描いていた。しかし、特に中盤の選手層が厚い浦和で、2016シーズンのリーグ戦出場は1試合だけに終わった。出場機会を得られない状況は翌2017シーズンも続き、同年9月にはJ2の水戸ホーリーホックへ期限付き移籍。翌年も移籍期間を延長して引き続き武者修行を積んだ。
2019シーズンは期限付き移籍先を、J1へ昇格した大分トリニータへ移した。しかし、開幕から2戦連続で先発を射止めるも次第に尻すぼみとなり、最終的には4試合の出場にとどまった。浦和へ復帰した2020シーズンも5試合、計85分間のプレーに終わった。
身長175cm体重69kgの体に宿るセンスも才能も申し分ない。しかし、それらを実戦で発揮するどころか、J1の舞台にすら立てない。2021年7月に再び水戸へ期限付き移籍した点に、状況を変えようと必死だった伊藤の焦りにも近い胸中が反映されている。
迎えた2021シーズンのオフにターニングポイントが訪れた。
当時J2を戦っていた新潟から届いたのは、期限付き移籍ではなく完全移籍のオファー。水戸への期限付き移籍を延長する選択肢もあったなかで、伊藤は新潟入りを、つまり浦和との決別を選んだ。当時の新潟の公式HP上で、こんな思いを綴っている。
「大きな覚悟を持って、このたびの移籍を決断しました」
ここで言及した「覚悟」とは何なのか。伊藤はこう語ったことがある。
「一人のサッカー選手として、もう若手と呼ばれる年齢ではなくなってきたなかで、J1での実績がほしい、という強い思いがありました。当時の新潟はJ2でしたけど、ここで活躍できなければ僕のサッカー人生はこのまま終わってしまう。その覚悟でここに来ました」