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判定結果を聞き王座返り咲きを果たした井岡一翔は号泣した(写真・山口裕朗)
判定結果を聞き王座返り咲きを果たした井岡一翔は号泣した(写真・山口裕朗)

なぜ井岡一翔は大ブーイングを浴びた約3キロ体重超過の剥奪WBA王者にドーピング問題試練も乗り越え勝利できたのか…フランコ「彼の方が精神的にタフだった」

 プロボクシングのWBA世界スーパーフライ級タイトルマッチが24日、大田区総合体育館で行われ、元4階級制覇王者の井岡一翔(34、志成)が、約3キロの体重超過で王座を剥奪されたジョシュア・フランコ(27、米国)に3-0の判定で勝利して、同級の王座返り咲きを果たした。当日は2.7キロの体重差があり、21日には、JBCがドーピング検査で大麻成分が出たことを発表するなど、激動の1週間の中で、タイトル戦を迎えたが、信念を貫いた井岡は、何ひとつ動じない敗者のフランコが称えた“鉄のメンタル”で因縁の再戦に完全決着をつけた。

 大ブーイングとヤジが会場を包む

 12ラウンド終了のゴングが鳴ると、井岡は両手を掲げ、そのままコーナーに駆け上がって吠えた。判定結果はまだ出ていなかった。
「充実していたんです。12ラウンド、自分との闘いをやりきった。戦い抜いたと。そしてフランコと向き合ってきた感覚で勝ったと思った」
 注目のジャッジペーバーが読み上げられる。
 リングの中央で井岡はレフェリーと共に判定結果を待ったが、フランコはコーナーに座ったまま立ち上がれなかった。この光景がすべてだった。
 115-112、116―112が2人、「ニュー…」という言葉を聞いた途端に井岡は号泣した。
「今日までいろんなことがありましたけど、みなさんの支えのおかげでまたこうやってチャンピオンに返り咲くことができました…」
 リング上で勝利者インタビューを受けた井岡は何度も言葉につまった。
「未来の子供たちに必ず報われる姿を見せたかった。自分の気持ち次第でどうにかなるんだと、戦い抜く姿勢を見せたかった」
 やり遂げた男の涙だった。

 フランコの入場時に大田区総合体育館を大ブーイングが包む。
 「オーバーウエイト!」
 そんな容赦のないヤジも飛んだ。
 王者は前日計量でリミットの52.1キロを3.1キロも超過する大失態を犯し、2時間の猶予が与えられた再計量でも200グラムしか落とせず王座を剥奪された。午前10時の当日計量で58.9キロを越えないことを条件に、井岡が勝てば新王者、負ける、あるいはドローで空位というルールのもと試合は成立した。フランコは、当日計量を58キロでクリアしたが、関係者からは「プロ失格」の批判が殺到した。ファンも「怒り」のブーイングを持って元王者を迎えたのである。
 リングに上がる寸前の体重は、フランコが60.2キロ、井岡が57.5キロで2.7キロ差があった。フランコの体重は、ほぼライト級。スーパーフライ級より5階級も上だった。階級制のスポーツにおいて体重差は大きなハンデとなる危険性があった。5年前のWBC世界バンタム級タイトル戦で山中慎介氏は、2.3キロも体重超過したルイス・ネリ(メキシコ)の増強されたパワーの餌食になり、2回TKO負けしていた例もある。
 だが、井岡は「そこを意識して戦っていない。逆に考えたくもなかった。言い訳をして戦いたくなかった。自分との勝負にだけ集中した」という気持ちで向かい合った。当日計量の条件も異例の58.9キロに設定されたが「何があっても戦いたかった」という井岡が相手陣営の要求をすべてのんだ。 
 
 井岡は決して下がらなかった。
 ドローに終わっった前回の対戦では、ロープを背負う場面が目立ち、フランコが貫いた手数と攻勢点が評価されてジャッジの票が、かなり米国人に流れた。
「覚悟をもって試合に挑んだ。自分が倒されも、倒しても後悔がないように勝負しなければいけない試合だった。相手を前に出させず、相手の得意分野で勝てば、負ける要素がない」
 フランコは、前回の対戦と変わらず手数を出してきたが、減量失敗の影響からか、明らかにパンチにスピードもキレもなく、井岡を苦しめた前進力のがなかった。だが、井岡陣営の巧妙な作戦が、そう見えるように前進力を封じ込めていた。
「1で止めたんですよ」
 井岡が明かす「1」とは、元王者の繰り出すジャブやワンツーの1発目のパンチに対して同時に仕掛けるカウンターだ。
「相手の1(のパンチ)にずっとカウンターを合わせると、2、3、4のパンチが出なくなる。それを続けてはまっていくと、フェイントをかけるだけで警戒心で、1、2しか出ない。前進できないように自分の圧をかけたんです」
 2ラウンドに強烈な右のストレートをヒットさせ、ひるんだ隙に左ボディを食い込ませ、フランコはよろめき下がった。
 これが「1で止める」の布石となった。
 ジャブで対抗するのではなく、あえてブロックで相手のパンチを受けた上で、右のカウンターと左フックの返しという目に見えぬ“恐怖心の圧”をかけ続けたのだ。

 

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