なぜ井上尚弥はフルトン戦前の公開練習をわずか30秒で切り上げて「一発が当たれば間違いなく終わる」と豪語したのか…1.8キロ増で生まれた確かなる根拠
プロボクシングの元バンタム級世界4団体統一王者の井上尚弥(30、大橋)が15日、横浜の大橋ジムで7月25日に有明アリーナで挑戦するWBC&WBO世界スーパーバンタム級王者、スティーブン・フルトン(28、米国)戦へ向けての公開練習を行った。フルトンは前日に41秒でシャドーボクシングを切り上げる煙幕を張ったが、この日、井上はそれよりも11秒短い30秒でシャドーボクシングを終わらせた。早くも世紀のビッグマッチにふさわしい神経戦がスタート。「過去一気合が入っている」という井上は「一発が当たれば間違いなく終わる」と豪語した。モンスターの言葉の根拠とは?
大橋会長が仕掛けた神経戦
ジムのデジタルタイマーがちょうど30秒を過ぎたときだ。
「じゃあ、ストップ、ストップ」
突然、大橋会長は井上尚弥が始めたばかりのシャドーボクシングを止めた。
井上は「え?」と“半笑い”を浮かべながらリングを出た。
「皆さん、申し訳ないですが、見せたくないんで。もう試合は始まっている」
“大橋カーテン”をおろした大橋会長は、そうメディアに説明した。
前日の公開練習で王者のフルトンも41秒でシャドーボクシングをストップ。パンチングボールを数発打つだけで公開練習を切り上げるという異例の“煙幕”を張っていた。
視察した井上真吾トレーナーは、「ここまでとは思っていなかった。流すにしても、もうちょっと普通にやると思っていた。公開練習でこれじゃあ…え?だよね。ちょっと失礼かなと」とあきれ、「もし明日フルトン陣営が公開練習を見に来たら、うちはもっと短い時間で終わらそうかな」と冗談交じりで宣言していた。
実際、この日の公開練習には、フルトンのチーフトレーナーを務めるワヒード・ラヒーム氏が、スタッフを同行して視察に訪れて動画カメラを回していた。
井上は1ラウンドだけロープを飛び、バンテージを巻くこともなくリングイン、フルトンより11秒短い、30秒で、ジャブとワンツーだけのシャドーを切り上げた。
別段、現場に緊張感が漂ったわけではなく、ラヒームトレーナーも、ピりついた様子は見せることはなかった。
記者の問いかけに足を止めて、「井上陣営が見せなかったことも理解できる。彼は偉大でカッコいいボクサー。リスペクトをしている。こっちが40秒で、あっちが30秒(笑)。そうやってメディアが書いてくれれば試合が盛り上がっていいんじゃないか」と笑っていた。
だが、凄まじい神経戦がスタートしていることだけは間違いない。現役時代にミニマム級のWBCとWBAの2本のベルトを獲得し、多くの修羅場をくぐり抜けてきた歴戦の大橋会長は、ビッグマッチに限って、こういう仕掛けをする。
大橋ジムの世界王者第1号となった川嶋勝重が、当時、V8を続けていた不動のWBC世界スーパーフライ級王者の徳山昌守と再戦した際には「徳山には致命的な欠点がある」と、情報戦を仕掛けて、その試合で、川嶋は大方の予想を裏切り1回にTKO勝利している。紙一重の戦いにおいて、ほんの小さなやりとりや動きが勝敗を左右する。
井上は報道陣が立ち去ってからバンテージを巻き最終調整に余念がなかった。