なぜ辰吉寿以輝は2年9か月ぶりの復帰戦をTKO勝利で飾れたのか…父・丈一郎のシリモンコン戦に重ねたメンタル…カリスマの感想は?
元WBC世界バンタム級王者、辰吉丈一郎(53)の次男の辰吉寿以輝(27、大阪帝拳)が6日、大阪北浜のエル・シアターで行われたフェザー級ノンタイトル8回戦で2年9カ月ぶりの復帰リングに上がり大商大時代に全日本準Vの経歴がある山原武人(23、泉北)を5ラウンド1分35秒TKOで下した。新型コロナの影響による興行ストップと、ケガで作ったブランクを感じさせない積極ファイトで1ラウンドに左フックでダウンを奪い、その後もジャブで圧倒し、最後は猛ラッシュで山原が棒立ちとなったところでレフェリーがストップ。リングサイドで観戦した父は、「合格とは言われへんけど、ブランクがあるからええんちゃう」と条件付きの“合格点”。年内にはランキング復帰を果たし来年に日本タイトル奪取を狙う。
「殴り合いなら誰にも負けない」
1300日以上もスポットライトの当たるリングから遠ざかっていた。
さすがの辰吉も緊張したという。
「デビュー戦が凄い舞台。あれ以上の緊張はない。その時に比べたら」
そう気持ちを落ちつかせた。
2015年4月に大阪府立体育会館(現エディオンアリーナ)で岩谷忠男(神拳阪神)を2回で倒したデビュー戦は、WBC世界バンタム級王者の山中慎介氏の世界戦のアンダーカード。当時18歳だった辰吉は、「あの時は18年のブランクみたいなもんやったから」と笑う。
これがカリスマの遺伝子なのだろう。
「喧嘩のつもりでいった。殴り合いなら誰にも負ける気しない」
2年9月ぶりの試合だというのに1ラウンドから辰吉は臆せず殴りかかっていった。相手の山原は大商大出身で全日本準Vのキャリアを持つアマエリート。しかもフェザー級で、体格はひとまわりは辰吉より大きかった。しかし「僕も意外と手足が長い。あれくらいの体格なら殴れば当たる。パンチをもらうことも怖くなかった。最初からガツガツいった」と、自分からプレスをかけて右スト―ト、左右のボディブロー、特に右のボディジャブで揺さぶりをかけながらアグレッシブに仕掛けていく。そして、いきなりのハイライトシーン。相手が出てくるところにカウンターの左フックがズドン。ダウンを奪ったのだ。
「左フックに絶対的な自信がある。でも大振りになった。ショートでいっていたら倒せた」
立ち上がってきたところに「時間など気にしない。残り1秒でも倒しにいく」と、猛ラッシュしたが、山原のクリンチワークに逃げ切られた。
2ラウンドからは、高速で角度を変えながら打つ左ジャブを軸に試合を組み立て直す。
「相手はアマ上がりでジャブが得意なイメージ。それで上回ったろかなと。パンチ(力)はこっちがあるんで。ジャブでさえ上回ったら、こっちのもんかな」
辰吉家の息子らしい負けん気。
4ラウンドには「手ごたえがあった」という父譲りの左のボディアッパーを効かせ、右のショートのストレートがカウンターとなって顔面をとらえ、山原をぐらつかせた。
この右が今回テーマにしていたパンチ。スパーリングでは、なかなか出なかったが、「僕は本番に強いタイプ」と、試合ではタイミングよく放ち、もうフィニッシュは時間の問題だった。
5ラウンドにアッパーも交えた連打で追い込み、最後は左フックがヒットしたところでレフェリーが山原を抱きかかえるようにして試合をストップした。片手を上げてリングをグルっと回った辰吉は、リング上でマイクを向けられ、「ここに来るまで色々あった。助けてもらった方々に感謝したい。思い通りではなかった。相手も強かったけれど自分に合格点はあげたい」と少し涙ぐんだ。
「やりきった。結果よければすべてよし」
2020年11月の今村和寛とのランカー戦が、偶然のバッティングで負傷ドローとなって以来、新型コロナの影響で、なかなかマッチメイクが進まず、その後、千葉の病院に入院するほどのケガを負い、決まっていた2021年8月の試合をキャンセルして長期のブランクを作った。
「気持ちが切れることはなかったけれど、試合がしたくてたまらなかった」
その間、いろんな模索もした。応援を続けてくれたスポンサーや周囲の人々の支えがあってリングに帰ってこれたことが何より嬉しい。