虎の指揮官は心理学者!…阪神の岡田監督が1回に4投手をつぎ込む“仰天継投”で破竹の8連勝…その裏にあった“心理的采配”の妙
阪神が11日、京セラドーム大阪でのヤクルト戦に2-1で競り勝ち8連勝、セ・リーグで60勝に一番乗りを果たした。岡田彰布監督(65)は8回のピンチを島本浩也(30)、岡留英貴(23)、及川雅貴(22)、馬場皐輔(28)の4投手をつぎ込む“怒涛の小刻み継投”で脱して流れを呼び込むと、その裏、代打の糸原健斗(30)が勝ち越しのタイムリー二塁打を放ち勝負を決めた。虎の夏のロードでの8連勝は1968年以来、55年ぶりの快挙で、貯金は今季最多をまた更新して「22」となった。“神采配”の裏にあったのが、選手に気持ちの余裕を与えて力を最大限に引き出す、まるで心理学者のような采配だった。
「フォアボールOKやから」
岡田監督が動く。
1-1で迎えた8回。ここまで1失点に踏ん張っていた村上に代えて、まずは左腕の島本をマウンドに送った。さすがの島本も3連投の疲れが見えた。先頭の代打・濱田にセンター前ヒットを許し、4回に同点の5号を打っている塩見にライトへ快音を残された。だが、森下がフェンスにぶつかりながらジャンピングキャッチする超ファインプレー。なんとか1点をもぎとりたいヤクルトベンチは一死から宮本にバントを命じて得点圏に走者を進めてきた。二死二塁で、右打者の山田を迎えたところで岡田監督が投手交代を告げた。
コールされたのは2年目の岡留。京セラドームを驚きのどよめきが包む。
「予定通り。後がいない。右ピッチャーは3人(岡留、馬場、小林)しか入ってないから」
この日、ケラーが一身上の都合で米国へ帰郷、巨人戦で3連投した加治屋もベンチから外していため、急きょ、今季2度目の1軍昇格となったばかりの23歳の右腕に重要な場面を託した。
岡田監督は、ここで岡留にひとつのアドバイスを送っている。
「フォアボールOKで行け!」
一塁は空いていた。無理に勝負をする必要はない。岡留は、カウント2-1から外角のスライダーでバットに空を切らせた。追い込んだが、5球目、6球目の外角へのスライダーが明らかなボールとなった。四球で歩かせ、二死一、二塁となって、3試合連続本塁打中の村上を迎えると、岡田監督は、今度は左腕の及川にスイッチ。そして及川にもまた「満塁まではOKやから」と伝えた。
及川も村上をフルカウントまで追い込んだ。3-1からインローに投じたスライダーは素晴らしく村上は手が出ずに見送ったが、最後は選択したストレートが外角に大きく外れた。及川も四球を与えて満塁となった。
「2人とも2球目のストライクは、ええボールがいった。もう1球いい球を放れるようになったら1軍にもっと定着する。でも打たれたらアカンけど、フォアボールはOKなんよ。ほんまにフォアボールやったけどな(笑)」とは、岡田監督の回想。
まだ経験の浅い2人の若手に「フォアボールOK」という心理的な余裕を与えたことで失投してタイムリーを許すという最悪の事態だけは回避できたのである。選手の心理をくみ取り、選手の持つ才能を最大限に引き出す、まるで心理学者のように繊細な岡田監督の采配だった。
二死満塁で、右打者のサンタナを迎えると指揮官は、このイニングで4度目のベンチを出る。交代を告げたのは右腕の馬場。もう四球は許されない勝負手だ。馬場はカウント2-2から甘いスプリットを左中間へ痛打された。ラインドライブのかかった強烈な打球。だが、それを近本が執念のスライディングキャッチ。またしても超美技でピンチを救った。岡田監督の仰天の小刻み継投で流れは阪神に傾いた。
その裏だ。ヤクルトのセットアッパーの清水から一死後、木浪が、この日、3本目となるヒットで出塁すると、岡田監督は、代打の糸原を告げた。