なぜ井上尚弥の“大親友”元Jリーガーの山口聖矢は29歳で衝撃の1回TKO勝利デビューを飾ることができたのか…モンスターの金言
プロボクシングのトリプルタイトルマッチが組まれた「フェニックスバトル103」が30日、後楽園ホールで行われ、第1試合では、WBC&WBO世界スーパーバンタム級王者の井上尚弥(30、大橋)の幼馴染で“大親友”である元Jリーガー山口聖矢(29、同)が加藤蓮(22、岐阜ヨコゼキ)を1回に右のカウンターの一撃で仕留める衝撃的なTKOでプロデビュー戦を飾った。山口は来年の新人王戦にライト級でエントリー予定だ。
井上尚弥のトランクスを譲り受けた
これが29歳の遅咲きルーキーのボクシングだろうか。
幼馴染で大親友の井上尚弥から「脇を締めて斜めに打て!」と教えられた直伝のジャブが初っ端からヒット。同じくデビュー戦の加藤の顔が大きく跳ね上がる。何発かそのジャブを続けて撃ち込み、ボディストレートなどでペースをつかむ。そして2分43秒。加藤が左を出そうとしたところに右のフックがカウンターとなって炸裂した。その場で相手はバタンと倒れて動かなくなった。衝撃のTKOデビュー。
「意外に当たった感覚がなく抜けたというか、なんというんですかね、打ち抜いたというより、パンという感じ。ああいう感じで倒れるんだなと」
派手なアクションは取らなかった。
頭を巡ったのは、井上尚弥からの金言
「相手が倒れても冷静に攻め急がず4ラウンドを戦え」
山口は「立ち上がってきたらどう攻めるか」を冷静に考えていたという。
加藤は一人では歩いてコーナーに戻れないほどのダメージを受けていた。
レフェリーからの嬉しい勝ち名乗り。
「興奮した。リングの中には勝った人だけが(味わえる)あれ(世界)がある。サッカーは仲間と一緒に喜びを共有する。ボクシングは、トレーナーら支えてくれる方々もいるが、一人。違った喜びがある」
山口はプロボクサーの勝者だけが浸れる恍惚を噛みしめていた。
実は、右手首を剥離骨折していた。スパーリングは左手1本。KOしたのはぶっつけ本番で解禁した右のパンチだった。ハードパンチャーの宿命か、プロデビュー前から山口は、右手首痛に悩まされ、だましだまし実戦トレーニングに入っていたが、あまりにも痛いために8月1日にレントゲン検査を受けたところ剥離骨折の痕跡があったという。それでも山口は弱音を吐かず準備を続け「倒すか、倒されるか」の覚悟を持ってデビュー戦のリングに上がっていたのである。
前日の計量からWBA世界バンタム級王者の弟の拓真と共に付き添い、ずっと動画を回していた井上尚弥は、この日も試合前ロッカーでのバンテージを巻く時から試合中もリングサイドの最前列から声援を送り続けていた。
「Jリーガーからプロボクシングに転向する決断がまず凄い。転向を決意した時から必死に練習してるところも見てきたし、今日こうしてまず結果が出て僕もホッとしています」
山口のインパクトのあるデビュー戦勝利を自分のことのように喜んでいた。
2人は通っていた幼稚園が同じでたまたま色も形もサイズも一緒だったシューズを片足ずつ間違って自宅へ履いて帰ったことが縁で意気投合した。そこから家族ぐるみの親交が始まり、幼稚園では2人ともサッカークラブに所属していたが、その後、井上尚弥はボクシング、山口はサッカーへと進み、以来27年間、交友が続いている。
井上尚弥に「親友は誰?」と聞くと真っ先に「聖矢」との答が返ってくる。
「一緒にいて互いに1時間無言でも心地よくて、わかりあえる相手っているでしょ?」
井上尚弥にとって山口は、そういう存在。