なぜ亀田和毅はIBF世界フェザー級2位決定戦で実力は下の南アボクサーにまさかの僅差判定負けを喫して「井上(尚弥)チャンピオンの名前を出して申し訳ない」と謝罪したのか
プロボクシングのIBF世界フェザー級2位決定戦が7日・大田区総合体育館で行われ元2階級制覇王者で同級5位の亀田和毅(32、TMK)が同級8位のレラト・ドラミニ(29、南アフリカ)に僅差判定負けを喫するという衝撃波乱があった。10ラウンドにドラミニを倒したが、ビデオ検証の結果、スリップダウンの判定となり、終盤の追い上げも届かず1-2の判定負け。和毅は、WBC&WBO世界スーパーバンタム級王者の井上尚弥(30、大橋)との対戦を熱望していたが、最悪の結果に終わり、潔く「名前を出して申し訳ない」と会見を通じて井上に謝罪した。大会プロモーターで兄の亀田興毅氏(36)は再起舞台を用意することを約束したが、3階級制覇への道も、ましてや井上戦の実現は大きく後退することになった。
「難しい。ジャッジ泣かせの試合」と興毅氏
判定結果を待つ大田区総合体育館が異様な雰囲気に包まれた。
リングアナウンサーが1人目のジャッジ、フェルナンド・ヴィラリアル(米国)のジャッジペーパーから読み上げる。「116-112」でドラミニ。続いて2人目の日本人ジャッジの染谷路朗は「115-113」で和毅。判定が割れ、そして3人目のジャッジ、マイク・フィッツジェラルド(米国)は「116-112」。採点だけが伝えられ、「以上、2-1の採点を持ちまして、勝者、ブルーコーナー…」と言った瞬間に、ドラミニが両手を掲げ、和毅は、ニヤッと笑い、勝者を潔く称えて、その場を離れた。
数時間前に会場のスクリーンに登場した大会プロモーターの亀田興毅氏が「3150ファイトは何かが起きる」と予言していたが、その何かは、まさかの悪夢となって亀田家に襲いかかった。
「難しい、ジャッジ泣かせの試合。どちらにつけてもおかしくないラウンドが続いていた。その流れの中での1ラウンド、1ラウンドの積み重ねが、どっちにふられるかで(こういう結果になる)」
興毅氏は、残念そうな面持ちで判定結果を分析した。
序盤は、両選手共に、スピードを生かしたジャブで牽制し合い、互いに有効パンチは一発もないという展開だった。「距離が一歩遠かった」とは和毅の回顧。
ジャッジペーパーを見ると、それらのポイントがすべてドラミニに流れていた。「10-10」の互角のラウンドだが、マストシステムを採用していて、どちらかに9をつけねばならないゆえに、こういう悲劇が起きる。ジャッジは、ドラミニの手数を評価したのである。
9ラウンドの終盤にようやく試合が動く。和毅はガードを盾に沈みこむようにして懐に入って左ボディから左フックのダブル。ドラミニが下がると、右フックをヒットさせ左フックまで返した。クリンチで逃げ切られたが、和毅は、ここを勝負どころと読んだのだろう。
続く10ラウンドにガードを固めて前へ出た。強烈なプレスをかけて距離をつめ、コーナーに追い込み、左のダブルジャブから続けて繰り出した左ボディが、確実にめりこみ、ドラミニがダウンしたのだ。だが、レフェリーはスリップの判断。
「ボディに入ったと思った。一緒のタイミング。滑ったのと同時だった」
手ごたえはあった。
この日組まれたIBFの2試合では、故意バッティングが危惧された重岡銀次朗の世界戦に備えてビデオ検証システムが導入されていた。試合が一時的に止められ、ただちにリングサイドでビデオ検証が行われた。出された結論は、スリップとしたレフェリーの判断の支持。「10―8」となるはずのポイントは奪えず、ビデオ検証の一時中断が、ドラミニにダメージ回復の時間を与えることにもなった。仕留めることができなかったものの。このラウンドでドラミニは右目の上をカットした。
11ラウンドには、ワンツーのビッグパンチを繰り出し、16年ぶりにセコンド復帰した父の史郎氏が「ゴーサイン」を出した。「腹!」「腹!」と大声で指示したが、またしても倒しきることはできず、試合は最終ラウンドにもつれこんだ。
リングサイドの最前列から興毅氏までもが「前へ行ってコンパクトに!」と声をからしたが、父が何度も「ホールド!」と訴えるほどの、巧みなクリンチで、うまく攻撃の時間を潰されて、決定打を打ち込めないまま非情のゴング。
「自分らチームは勝ったと思った」という和毅は無表情。
「僅差の判定だと思っていた」というドラミニは右手を上げていた。