アマボクシング界の“モンスター”坪井智也が全日本を制してパリ五輪世界予選出場権をゲット…「最も金メダルに近い男」の評価
アマチュアボクシングのパリ五輪世界予選代表選考会を兼ねた全日本選手権の男女決勝が26日、東京・墨田区総合体育館で行われ、男子3階級、女子5階級の優勝者が、来年2月と5月に開催される世界予選への出場権を得た。パリ五輪の代表枠獲得だけでなく「最も金メダルに近い男の一人」と言われているのが、フライ級で優勝した坪井智也(27、自衛隊体育学校)だ。大会2連覇中だった同じ自衛隊体育学校の牧野草子(24)を5-0で完封して2017年以来、通算5度目の優勝を遂げて存在感を見せつけた。リオ五輪、東京五輪と2度出場権を逃している坪井は、「3度目の正直。金メダルは獲れる」と意気込んだ。
「日本で誰も敵がいないことが分かったと思う」
アマボクシング界の“モンスター”が豪語した。
「誰がどう見ても日本じゃ坪井に相手(敵)がいないと分かったと思う」
決勝戦では、自衛隊の同僚で、この階級で大会2連覇中だった牧野をフルマークの5-0判定で完封した。坪井が見ていたのは、ずっと先。
「日本人選手ならフルマークで完封しなければ世界一になれない」
だからあえて1ラウンドごとにボクシングを変えて見せた。
第1ラウンドは、突っ込んでくる牧野とクリンチになる展開が増えると、ジャブでさばき、終了間際には、右のオーバーフックを浴びせ、牧野の足がもつれて尻もちをついた。スリップダウンの判定だったが、ジャッジ全員が坪井を支持。第2ラウンドは、ワンツーを軸にした坪井得意の出入りのスタイリッシュなボクシングで圧倒した。
「対策してくるのはわかっていた。1ラウンドも2ラウンドも(ボクシングスタイルを)変えた。第3ラウンドは(相手が)倒すしかない局面であえてつきあって、打ち勝とうと思った」
第3ラウンドは頭をつけての激しいインファイト。
至近距離からアッパー、ボディと多彩にパンチを散らしながら、途中、4連打、6連打と打ち込んでの完勝だった。坪井はオールマイティ。なんでもできることを示した。
10月の杭州アジア大会では、準決勝でリオ五輪のフライ級金メダリストで世界選手権の同級覇者でもあるハサンボイ・ドゥスマトフ(ウズベキスタン)に1―4の判定で惜敗した。銅メダルは獲得したが、五輪代表枠を勝ち取る2位以上の条件をクリアできず、この全日本選手権からの再スタートとなった。ドゥスマトフ戦の勝敗を分けた第2ラウンドの判定は微妙で、日本ボクシング連盟の内田貞信会長は、今回、来日したIBA(国際ボクシング協会)会長のウマール・クレムリョフ氏に改めて直談判で抗議したほどだった。
だが、坪井は、敗戦を受け入れた。
「僕は負けたと思った。ジャッジによれば勝ったという人もいるかもしれないが、しっかりと見直すと取られたところもあった。負けていないと言えば成長がない」
そして次の日から今回の全日本選手権に向けて「本当に悔しくて全部を一からやり直して変えた。この1か月、死ぬ気でやった」という。