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井岡が7回KOで防衛に成功(写真・山口裕朗)
井岡が7回KOで防衛に成功(写真・山口裕朗)

「井上尚弥よりも先に引退するので最多勝記録は彼が抜く。こだわりはない」なぜ井岡一翔は大晦日にKO勝利を有言実行できたのか…語り尽くした究極技術論と2024年の戦い

 プロボクシングのWBA世界スーパーフライ級タイトルマッチが大晦日に大田区総合体育館で行われ、王者の井岡一翔(34、志成)が挑戦者の同級6位ホスベル・ペレス(28、ベネズエラ)から計3度のダウンを奪い、7回2分44秒KOで下して初防衛に成功した。井岡のKO勝利は2020年大晦日に田中恒成(畑中)を倒して以来、6試合ぶり。KO宣言を有言実行した。また2階級4団体制覇王者の偉業を達成した井上尚弥(30、大橋)に12月26日に追いつかれていた日本人の世界戦最多勝利数を22とし再び単独トップに躍り出た。なぜ井岡は有言実行できたのか。そして井上との世界戦最多勝レースをどう思っているのか。

 「勇気を持たないと技術は出ない」

 

 34歳の4階級制覇王者が絶叫した。
「久しぶりのKO勝利を皆さんにお見せできてチョー気持ちいい!」
 水泳の北島康介がアテネ五輪で金メダルを獲得した際に残した名セリフに重なるが「ちょっと考えていましたけど(笑)」と正直にバラした。
「今までKOしてきた時のあの会場の感じ。言葉で説明できない興奮を味わいたかった。12回目の大晦日に応援して下さる方々によりいいパフォーマンスで応えたかった。レフェリーが10カウントした気持ちの良さは、あの言葉に尽きた」
 7ラウンドだった。ロープを背負わせ、ボディに餌を巻いてからの右ストレート。ペレスの顔面がゆがみ、コーナーに崩れ落ちた。膝をたてロープの一番下にもたれかかったまま異国の大晦日に10カウントを聞かされることになった。
 井岡はコーナーに駆け上がって咆哮した。

 KO宣言に嘘はなかった。
 前に出た。左のリードブローで徐々に間合いを詰めていく従来のスタイルではなく、ジャブは多用せずに、歩くようにして強引にプレスをかけた。
「強引のなかでも計算と駆け引きがある。距離を縮めれば、相手のパンチは死ぬが、こっちが打てるスペースは残る。相手のパンチが、こないように角度も変えた。訂正、訂正をして強いパンチを打ち込めた」
 井岡の表現を借りれば「後出しジャンケンの後ろでのボクシング」をすれば被弾のリスクが減り、展開作りに余裕が生まれる。だが、下がることで自らがミスを犯してリズムやペースを明け渡すことにもなりかねない。倒すには、前でボクシングをすることが理想だが、そこには被弾のリスクを負う。
「迷いはなかった。近い間合いだと相手のパンチが飛んでくる。相手は研究している。世界トップランカーで南米独特の踏み込み、打ち込みがある。焦りはしなかったが丁寧になりすぎると難しい。もらったパンチもあったが動揺はしなかった」
 そして何より極上のスキルを活かすには一歩前に出る勇気が必要だった。
「技術を出せるのには心技体。勇気を持たないと技術は出ない。でも何回世界戦(のリング)に上がっても怖い。勇気を出して踏み込むことでパンチが出る。心の覚悟を決めていた」
 じりじりとガードを固め。前へ。
 5ラウンドだ。右のカウンターのストレートを効かせ、ボディの乱打から右フックを浴びせるとたまらずペレスはダウンした。立ち上がってきたが、そこに再び右ストレート。お尻から崩れ落ちた。ペレスは、ゴングに救われたが、井岡のKOを狙う強い意志は、大田区総合体育館に集まった3557人のファンにヒシヒシと伝わっていた。
 だが、ここからが百戦錬磨の井岡の本領発揮だった。
「(パンチが)効いているのがわかったので、いきたくなるが、あと一発、入りそうだと雑になると、相手のやりたいことにはまり、楽な展開になる。KOの仕方のメンタルを切り替えてのコントロールが大事になる」
 フィニッシュを焦り一発を狙うことはしない。ボディから上へ。丁寧にコンビネーションを打ち分けながらチャンスをうかがう。自分のペースを崩してまで強引なことをしない。あえて右のパンチを打たせて、そこに左のボディを合わせた。動きが止まると左ボディを6連発。それもすべてはフィニッシュへの布石だった。

 

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