「なんで今さら」「もっと厳しい処分を」なぜJBCは9か月も遅れてドーピング検査で大麻成分検出のWBAチャンプ井岡一翔に戒告処分を下したのか…SNSやネットでは物議
日本ボクシングコミッション(JBC)は10日、4階級制覇王者で現WBA世界スーパーフライ級王者である井岡一翔(34、志成)が2022年の大晦日に開催されたジョシュア・フランコ(28、米国)との統一戦のドーピング検査で大麻成分が検出された問題に関して倫理規定第2条に違反したため戒告処分を下したことを発表した。処分は3月7日付で発令されているが、大麻成分の検出が発表されたのが昨年6月。井岡は使用を完全に否定、JBCルールにも抵触せずあくまでも“疑惑の域”を越えなかった問題をなぜ9か月も経過してから倫理規定にあてはめて処分したのか。そこには今後“反ドラッグ”を明確に打ち出したいというJBCの姿勢が背景にある。
「ボクシング界を代表するボクサーが違法に大麻を使用しているという疑念を生じさせた」
「なんで今さら」
「遅すぎ」
「疑惑のままでしょ?」
「もっと厳しい処分を」
「永久追放にすべきだろう」
JBCの唐突な井岡への処分発表は、SNSやネット上で賛否両論を含めて様々な物議を醸した。
処分対象となったのは2年前の大晦日に行われた当時WBO世界スーパーフライ級王者だった井岡とWBA世界同級王者のフランコとの統一戦でのドーピング検査で、尿検体から禁止薬物である大麻成分(THC)の代謝物であるTHC-COOH (Carboxy-THC) が検出された問題。
JBCルールには大麻に関する規定がないため、加盟はしていないが、WADA(世界アンチドーピング機構)が定める基準値を参考にし、その閾値である150ng/mlには達していなかったため、ルールに抵触はしないと判断された。だが、社会性を考慮して隠蔽とも捉えられたくなかったため6月24日に予定されていたフランコとの再戦の3日前に、その事実を発表した。その際、井岡は「嘘はなく、正々堂々と戦っている」と大麻の使用を完全否定した。
2020年大晦日の井岡―田中恒成(畑中)の世界戦のドーピング検査でも大麻成分が検出されたが、この際、JBCの杜撰な検体の管理が明らかになった。井岡の潔白を証明するためのB検体も、警察に相談したために没収されるなどの不手際が相次ぎ、結局、井岡側が主張した「尿が腐敗して大麻成分が生成された可能性がある」との答申が受け入れられ、当時のJBCの理事長が謝罪した経緯もあり、井岡サイドは不信感を示した。
WADAでは検出された成分が基準値以下の場合は陰性とみなされ発表もされない。あえて大麻が検出された事実をJBCが公表したのは、米国の一部地域やタイ、オランダなどで合法化されている海外とは違い、日本の社会では違法薬物として取り締まりの対象となっているためだ。JBCは「当法人は、ドーピング行為に反対し公正なボクシングを推進しています。また、当法人は青少年の健全な育成を支援しており、日本における大麻などの違法な薬物の使用は一切認めていません」との声明を発表している。
そしてJBCは大麻成分が出たという事実を見過ごすことはしなかった。JBCルールには違反していないが、ライセンス保持者が守らねばならない倫理規定の中に「日本国の法令や社会的規範を守ること」や「社会秩序を乱す行動や社会から非難される行動をしてはならない」などの条項があるため、その違反を問い、倫理委員会が井岡自身の意見、反論を聞いた上で今回の処分を下した。
「本試合の開始前の不詳の時期に、不詳の場所において、不詳の方法により日本において所持が禁止されている大麻の成分であるTHCを摂取する行為又は受動的にTHCを摂取することになる状況を招く作為若しくは不作為をしたとの疑い完全に払しょくできず、ボクシング界を代表するボクサーが違法に大麻を使用しているという疑念を生じさせた」というのが、その理由。
実は、検出された大麻の成分の量は50 ng/ml前後あったという。微量ではあるが、副流煙や大麻成分の含まれた食品やリラックスオイルの使用の影響などで検出される量ではない。本人が使用を否定しており、JBCが証拠をつかんでいるわけでも、警察が捜査に入ったわけでもないが、あくまでもデータから推測して、試合の数日前にそれなりの量を摂取した疑惑が拭いきれないとして、JBCルールには抵触していないが、倫理規定に違反しているとして、今回、6段階ある処分のうち厳重注意に次いで2つめに軽い戒告処分とした。