なぜパリ五輪で卓球男子はメダル“ゼロ”?「水谷隼がいた頃の選手層がない。自費で国際大会に参加している現状」団体3位決定戦に敗れ“惨敗”に終わった理由を元オリンピアンが解説
パリ五輪卓球の男子団体3位決定戦が9日、パリ南アリーナで行われ、世界ランキング4位の日本がフルマッチの末、2-3で同3位の開催国フランスに敗れ、2012年のロンドン五輪以来、3大会ぶりにメダルなしで終わった。第1試合のダブルス、世界ランキング9位のエース張本智和(21、智和企画)が臨んだ第2試合のシングルスを落とした日本は粘って2勝2敗としたが、最後の第5試合で篠塚大登(20、愛知工大)が今大会の男子シングルスの銅メダリストのフェリックス・ルブラン(17)に1-3で敗れて力尽きた。今大会で男子は個人戦も含めてメダルゼロ。一方で女子はシングルスで早田ひな(24、日本生命)が銅メダルを獲得し団体戦でも決勝へ進出した。この格差はなぜ生まれたのか?
水谷氏も苦言「あんなプレーと気持ちじゃオリンピックのメダルは遠い」
必死にこらえ続けていた涙が、最後に張本の頬を伝った。
「僕が2つ取っていれば勝てた。2人が責任を感じる必要はない。2人はダブルスも頑張ってくれたし、戸上も3番で勝ってくれたし、篠塚だから5番であんなにいい試合ができた。みんな力を出し切った、本当にいいチームだった」
完全アウェイの状況で、開催国フランスに3位決定戦で敗れた直後のフラッシュインタビュー。パリ五輪の男子団体チームを組んだ戸上隼輔(22、井村屋グループ)と篠塚に感謝の思いを伝えながら、シングルスを含めて、3大会ぶりにメダルなしで終わった責任を一人で背負うように張本は声を振り絞った。
戸上と篠塚で組む第1試合のダブルスを1-3と、1回戦から数えて4戦目で初めて落とした。エース同士が対峙する第2試合でも、張本がシングルス銅メダリストのルブランに2-3で敗れた。最終第5ゲームで10-7とマッチポイントを握りながら、立て続けに5得点を奪われるまさかの逆転負けだった。
現役時代は日本代表のエースとして活躍し、1992年のバルセロナ五輪から4大会連続で五輪に出場した松下浩二氏(56)は、スウェーデンとの準決勝の第5試合でもアントン・シェルベリ(26)に2-3で敗れ、責任を感じて号泣した張本の戦いぶりを「ルブラン戦の最後は、明らかに焦っていた」と振り返る。
「ルブラン選手に追いつかれても冷静にプレーできればよかったけど、あの場面では普通の選手になっていたように見えてならなかった。自分が2つ勝たなければいけないと、計り知れないほど大きなプレッシャーを感じていたと思う」
追いつめられた日本は、第3試合で戸上がルブランの兄アレクシス(20)を、第4試合では張本がシモン・ゴジ(29)をともに3-1で連破。逆転での銅メダル獲得を託された第5試合の篠塚は第3ゲームを14-12で奪い、第4ゲームも必死に食い下がったが、3度目のマッチポイントを握られた末にルブランに12-14で屈した。
「篠塚選手の敗戦は責められない。篠塚選手に限らず、誰を責めるとか、そういったものではない。団体戦はやはりチーム力の勝負なので、日本のチーム力が準決勝でスウェーデンに、3位決定戦ではフランスに敗れたと受け止めなければいけない」
今大会の男子団体をこう振り返った松下氏は、団体で銅メダルを獲得した東京五輪後にエースの水谷隼氏(35)が引退し、丹羽孝希(29、ファースト)が代表引退を表明した男子卓球界の現状に対しても次のように言及した。
「今後はパリ五輪に出場した3人以外にも、選手層の厚さといったものを作っていく必要がある。引退した選手の名前を出すのは申し訳ないけど、水谷氏が現役だったときの日本の選手層は明らかにいまよりも厚く、実際に五輪でメダルを獲得していた。切磋琢磨する状況が生まれれば、おのずとチームは強くなっていくので」
2016年のリオデジャネイロ五輪でも、日本はシングルスで水谷氏が銅メダルを、水谷氏と丹羽、吉村真晴(31、SCOグループ)で構成された団体では銀メダルを獲得した。五輪でのメダル獲得が2大会連続で途切れた男子に対して、女子は2012年のロンドン五輪を皮切りに4大会連続でメダルを獲得している。
パリ五輪でも早田がシングルスで銅メダルを獲得。早田と平野美宇(24、木下グループ)、張本美和(16、同)で組む団体は悲願の金メダルをかけて、日本時間の10日22時から中国との決勝戦に臨む。