なぜダービーを3番人気ドウデュースが驚異的タイムで制したのか…53歳の武豊が見せた3つの“神”騎乗テク
競馬の祭典「第89回日本ダービー」(東京芝2400メートル、G1)が29日に行われ、3番人気のドウデュース(牡3、友道)が直線で鮮やかに抜け出し、2分21秒9のレースレコードで優勝した。鞍上の武豊騎手は6度目のダービー制覇で自身が持つ最多勝利記録を更新。53歳でのダービー勝利は最年長。あらゆる”経験値”をいかした手綱さばきが光った。レースは前評判通り、皐月賞組が上位を独占。 首差2着は2番人気のイクイノックス、3着は7番人気のアスクビクターモア、1番人気のダノンベルーガは4着、4番人気の皐月賞馬ジオグリフは7着だった。なぜドウデュースと武コンビは歴史を塗り替えることができたのか。
「しびれるような手応えがあった」
競馬界のレジェンドがまたもや不滅の金字塔を打ち立てた。
「日本ダービーを知り尽くした男」武豊がドウデュースを心憎いほどスマートにエスコート。会心の騎乗で同世代のサラブレッド7522頭の頂点に導いた。
「ある程度想定していた並びで凄くいいポジションが取れた。ペースは少し早いかなと思いながらも自分のペースを崩さずに行こうと思っていました。4コーナーを回るときにはしびれるような手応え。先頭に立つのが少し早く、気を抜こうとしたのですが、最後まで伸びてくれた」
13年のキズナ以来9年ぶりの勝利。絵になる男の復活に入場規制が緩和されたことで詰めかけた6万超の観衆からは自然と「ユタカ」コールがわき起こった。
「頂点のレースですから、たくさんのお客さんの前でレースがしたかった。その意味でもきょうはうれしかったし、ダービーのウイニングランはやっぱり格別。ジョッキーをやっていて、これほど幸せな瞬間はない。感無量です」
勝利の裏にはいたるところに経験値がちりばめられていた。まるでドローンか何かで俯瞰しているような視野の広さと冷静さ。馬群の状態、各馬の動きやペースを読み切り、レースを進めていった。
前半1000メートルの通過が58秒9。過去10年でロジャーバローズが勝った19年(57秒8)、ドゥラメンテが勝った15年(58秒8)に次ぐ速いペースとなったが、これを見越して、道中は14番手の後方に構えた。結果的に、この後方待機策がハマったとの見方もあるが、真実は、そんなに簡単なものではない。
武豊だからこそできた円熟の騎乗ポイントは3つあった。
まずは向正面で、ひとかたまりとなった中団馬群の直後をキープしたことだ。ダノンベルーガ、ジオグリフを視界に入れながらポツンと1頭だけ、他馬のプレッシャーがかからない理想的なポジションを取った。ここで無駄な消耗がなかったことがラストの切れ味につながる。
さらに、4コーナーのコーナーリングも絶品だった。内から外へ鮮やかにワープしたアドマイヤベガのダービーを思い出させるような巧みな進路取り。ロスを最小限にしながら、なおかつ1番人気のダノンベルーガにフタをして外への進路を封じ込めた。これぞ、匠の技だ。