なぜ世陸4×100mリレーで東京五輪に続きバトンミス”失格”が起きたのか…お家芸復活に求められるものとは?
オレゴン世界陸上で最も注目を浴びていた種目のひとつである男子4×100mリレーに〝厳しい現実〟が待っていた。22日(日本時間23日)に現地で行われた予選(3着+2)は2組あり、日本は前回王者の米国と同2位の英国と同じ1組に出場。スタートを得意とする1走・坂井隆一郎(大阪ガス)が上位争いを展開するも、2走・鈴木涼太(スズキ)と3走・上山紘輝(住友電工)のバトンパスがもたついた。それでも18歳のアンカー・栁田大輝(東洋大)が中国を抜いて、38秒78で4番目にゴール。着順での予選突破は逃したが、決勝進出への望みをつないだはずだった。
しかし、鈴木が上山にバトンを渡す際に、テイク・オーバー・ゾーンを超えており、「失格」の判定が下される。昨夏の東京五輪に続いて「途中棄権」となり、3大会連続の決勝進出を逃した。
100mで準決勝に進出した自信を胸に1走を走った坂井は、「スタート自体はうまく切れて良かったんですけど、後半は内側の選手を意識して外に振られてしまい、バトンが練習のときよりも少し離れてしまった」とバトンパスの難しさを実感した様子だった。
2走を務めた鈴木が「2・3走のバトンがうまくいかなかったので、こういう舞台でしっかりやるのは難しいなと思いました」と言えば、3走の上山も「メダルを狙っていたので、バトンミスしてしまったのが悔しい。もっと自分の力を上げて勝負していかなければと思いました」と話した。
アンカーを務めた栁田は、「正直、悔しい気持ちでいっぱいです。ミスが出た部分もあったと思うんですけど、誰が悪かったとかじゃなくて。自分はリレーだけで選んでいただいたので、練習の段階でもっと余裕のあるバトン合わせができたのかなと思っています」と反省点を口にした。
バトンパスを得意とする日本に、なぜ昨夏の東京五輪に続いてミスが起きたのか。
まず今大会は予期せぬメンバーチェンジがあったこともあり、出走した4人全員が世界陸上初出場となったことが挙げられるだろう。
当初のプランでは1走・坂井、2走・サニブラウン・アブデル・ハキーム(タンブルウィードTC)、3走・上山(もしくは小池祐貴=住友電工)、4走・小池(もしくは栁田)というオーダーが有力視されていた。しかし、メンバー最年長で100m9秒98の自己ベストを持つ小池に新型コロナウイルスの陽性反応が出たため欠場。さらに100mで7位入賞を果たしたサニブラウンは、その個人種目のダメージがあり、予選メンバーから外れることになった。
そのため日本は10秒02の坂井、10秒22の鈴木、10秒33の上山、10秒16の栁田というオーダーとなった。4人の自己ベストの合計タイムは40秒73。これは昨夏の東京五輪メンバー(10秒01の多田修平、9秒95の山縣亮太、9秒98の桐生祥秀、9秒98の小池)の合計タイム(39秒92)と比べて、大きく劣る。走力的に「メダル」を目指すのは無理があったといえるだろう。
日本の4×100mリレーはバトンパスが肝となる。鈴木が「(競技場の)中に入ってからの状況などでバトンの部分は変わってくる」と話していたように、直前の微調整が必要だ。もしリーダー格の小池がいれば、その辺りをうまくケアできたかもしれない。
坂井、鈴木、栁田は昨年の世界リレーで3位に入ったメンバー(今回と同じ走順)だが、上山は今回が初のリレーメンバー。しかも、200m予選で日本歴代9位となる20秒26(+1.0)をマークするなど絶好調だったのがバトンパスでは裏目に出た。
2走・鈴木は世界トップクラスの選手に前半食らいついた分、終盤は減速が大きかった。一方、3走・上山がシャープな飛び出しを見せたことで、両者の差が思うように詰まらず、バトンがうまくつながらなかったのだ。
小池とサニブラウン不在について、日本陸連の土江寛裕ディレクターは、「今回は若い選手が中心で、経験を積んだ核となる選手であったので、影響はとても大きい」と漏らしていた。不安が的中してしまったかたちだ。