なぜ元俳優の高岡蒼佑は白星で格闘家デビューを飾れたのか…「ゼロになっても立ち上がればいい」…今後とその実力は?
流れが変わったのは、2ラウンド中盤だ。
それまで対戦相手のトミーが繰り出すラフなパンチを受け、真っ直ぐに後退したり、背中を向けてしまうという危ないシーンが目立ったが、練習で取り組んでいたサウスポースタイルにスイッチするなどして、ホスト格闘家を翻弄。ローキックが3連発で決まり形勢が逆転した。
「体力がなくて、想像以上に消耗してしまった。それでも体が動かない中、練習でやったことを必死で試すことはできた」
特別に1ラウンドを3分ではなく2分に設定していたが、高岡のスタミナはきれかけていた。それでも3ラウンドのゴングが鳴ると、最後の気力を振り絞って両者はノーガートで壮絶に打ち合った。高岡が顔を背け、一瞬ひるむ場面もあったが、「残り30秒」のアナウンスが入ると猛ラッシュを仕掛けた。相手が防戦一方となったところでレフェリーはスタンディングダウンを取った。トミーは、すっかり戦意喪失していたが、試合は続行。映画のラストシーンのようにほぼ同時に終了のゴングが鳴り、結果的に3-0判定で高岡が勝利をつかんだ。
「無様な場面もありましたが、それも自分。恥ずかしいなんて事はない。残り30秒でやらなきゃと思った。最後はどつきあい。効いているな、と感じた」
俳優業のかたわら過去にボクシングジムに通っていたことがあり、格闘家デビューを決めてからはキックボクシングジムで練習を積んできたが、まだ実力云々を語るより“アマチュア”の域は脱していない。 一方の対戦相手のトミーも、ユーチューバー集団「フォーカード」の一員で大阪・ミナミのホストクラブ「REBELLION」の人気ホストという肩書き。こちらも本格的なプロ格闘家ではない。試合のレベルも、練習生の“どつきあい”で、試合後、トミーは、「知名度が上がるし、正直、対戦すればおいしいと思った。3週間、ホストもしながら毎日練習しました。体力には自信あったんですが、高岡さんのパンチは一発一発が重かった。効いたパンチはなかったが、スタンディングダウンを取られて、やる気をなくした。殴られるのが嫌いなので、次はやりません」と話した。
互いに高いレベルでのキック技術はなかったが、勝敗を分けたのは、高岡との「志」の違いだったのかもしれない。
高岡は、2007年に女優の宮崎あおいと結婚したが、その後、離婚し、2018年に一般女性と再婚して2児の父親となった。この日も応援に駆けつけて見守ってくれた家族のため、どんな立場に置かれても変わらない市原隼人ら俳優仲間のためにも自分らしく戦い抜くと決めてリングに上がった。
「子どもたちは納得してくれないだろうけど、喜んでくれたんじゃないかな。隼人はここ15年変わらずそばにいてくれたし、ギリギリまで連絡をくれた。でも、この内容だと怒られそう」
試合後会見の最後になって、やっと笑顔がこぼれた。
試合を観戦したボクシングの元世界王者の1人は、「まずは勝って良かった。この後どうするのかなんて、人の人生なのでとやかく言えないが、これだけのお客さんが入ったデビュー戦で、あれだけやれれば十分じゃないか」との感想を口にした。
元K―1ファイターで、大阪市内にジムを構える中迫剛氏は、ここまで練習を見てアドバイスを送っていたようで、「練習の10分の1ほどしか力を出せていないんじゃないか。この日、見つかった課題や経験を次に生かすことが大事」と、その隠れた才能を評価していた。