なぜ新国立競技場はJリーグに積極活用されないのか…開場2年以上経過でやっとFC東京対ガンバ大阪戦開催…五輪のレガシー精神はどこへ?
今シーズンがわずか3試合の開催となった背景には、ふたつの要因が考えられる。
まずはホームタウン意識の浸透だ。Jリーグの黎明期は何よりもサッカーを浸透させようと、交通アクセスのいい旧国立競技場を試合会場とするクラブが多かった。
例えば1993年5月15日の開幕戦、ヴェルディ川崎対横浜マリノスは前者のホームだった。マリノスも後に旧国立競技場でホーム戦を開催し、浦和レッズや名古屋、清水、ジェフ市原、鹿島アントラーズ、ジュビロ磐田、川崎フロンターレなども続いている。
国立競技場におけるJ1リーグ戦の試合数も、1994シーズンで「28」を、1995シーズンでは「31」を数えたのに対して、2010シーズンには「2」に激減している。ホームチームとして磐田と湘南ベルマーレを迎えたのは、ともにFC東京だった。
アクセスのよさから集客が望める都心の国立競技場よりも、ホームタウンのファン・サポーターを第一に考えて、ホームスタジアムで興行を優先させる。必然的に国立競技場は中立地として、シーズンの到来を告げるFUJI XEROX SUPER CUPや、ヤマザキナビスコカップやJ1昇格プレーオフの決勝が行われてきた。
改修後も引き続きルヴァンカップ決勝や、日本サッカー協会が主催する天皇杯決勝の舞台となってきた。そして、今年初めから行われた五輪後の整備終了を終え、ようやくリーグ戦開催が可能になった国立競技場、今度は金銭的な負担の大きさが影を落とす。
リニューアルされた国立競技場の使用料は、1試合あたり1500万円とされる。FC東京の場合、味の素スタジアムの使用料は同1000万円と言われていて、つまりは全国でも高額な国立競技場で試合を開催するたびに負担が500万円増える計算になる。
コロナ禍で設けられてきた入場者数の上限が撤廃された今シーズンだが、一度遠のいたファン・サポーターの客足はまだまだ回復途上にある。依然としてコロナ禍以前の収入を見通しにくい状況が、国立競技場の使用に二の足を踏ませるのだろう。
もっとも、FC東京も首都をホームタウンとする唯一のJ1クラブとして、東京23区内からの集客に長く苦戦してきた歴史がある。味の素スタジアムでの観客動員増へ向けて、国立競技場での開催を触媒にした訴求効果を期待した部分があった。検討を重ねた末に、ホーム17試合のうちガンバ戦と京都戦を国立競技場で申請した。
国立競技場でのホーム戦開催を希望するクラブは、まずJリーグ側へ申請する。新たなファン層を開拓していく絶好のチャンスととらえたJリーグも、FC東京と連動しながらさまざまなキャンペーンを打ってゴールデンウィーク初日を迎えた。
FC東京のチームカラー、青と赤の花火が400発以上も打ち上げられるなど、キックオフ前には大規模なコンサートのような演出もほどこされた。悪条件下でも大観衆で埋まった光景に、3月に就任した野々村芳和チェアマンも手応えを深めた。
「コロナ禍からいかにして元の姿に戻していこうかというなかで、心理的なハードルを乗り越えられるかどうかにチャレンジした企画だったが、今後に期待が持てたと思う」