なぜ新戦力発掘に消極姿勢だった森保監督がシュツットガルトの23歳DF伊藤洋輝を初招集したのか
昨年9月以降の国際Aマッチデー期間は、すべてアジア最終予選が組み込まれた。勝利が最優先される戦いで、ドイツで急成長中の伊藤を試す状況は訪れなかった。 オンライン形式で17日に行われた囲み取材。6月シリーズで初招集の選手が名を連ねる確率を、指揮官は「少し低くなる」と位置づけた。ただ、ゼロとは言い切っていない。チームに新たな力と可能性を与える期待を込めて伊藤を初招集した。
3バックの左だけではない。伊藤はシュツットガルトで4バックの左センターバックだけでなく、スピードを生かした左サイドバック、シーズン序盤には3バックの真ん中でもプレーした。主戦システムの[4-3-3]にフィットする可能性も十分にある。
例えば長友佑都(35、FC東京)が招集された左サイドバック。歴代2位の134キャップを誇る鉄人をしても補えない、上背を含めたサイズという問題は伊藤には無縁だ。直近のリーグ戦で負傷退場した冨安健洋(23、アーセナル)のプレーが難しいと判断されれば、4バックの左センターバックで出場するチャンスも生まれてくる。 招集したメンバー全体を見わたせば、コンディション不良のFW大迫勇也(32、ヴィッセル神戸)、負傷離脱中のDF酒井宏樹(32、浦和レッズ)と常連が選外になった。一方で3月シリーズにはいなかったFW古橋亨梧(27、セルティック)やMF鎌田大地(25、フランクフルト)、MF堂安律(23、PSV)らは実績のある復帰組だ。
ワールドカップまでの限られた時間で、チームとしての成熟度を高めていく狙いがあるのか、というメンバー選考に関する問いを森保監督は否定しなかった。
「メンバーに関してはいろいろなとらえ方がある。代わり映えないと言われることもあると思うが、選ばせてもらった選手たちはシーズンを通して力を見せている。普段のスカウティングから、今回の選手たちを招集させてもらった」
同時に6月の次は9月後半しか強化試合を組めず、通常は約1ヵ月間の時間が取れる直前キャンプもほぼゼロという状況で迎えるカタール大会へ向けて、それでも代表チームに通じる扉は完全には閉めないとメッセージを発信した。 「チーム作りを進めていくなかで、もちろんこれまで未招集だった選手、なかなかチャンスがなかった選手にもこれから時間はある。そのなかでスカウティングを重ねながら、最終的には最強のチームを作れるように考えていきたい」
未招集組の象徴として、誰をも納得させる結果を介してチャンスを勝ち取った伊藤はすでに帰国。つかの間のオフで充電している最中に森保ジャパン初選出と、シュツットガルトへの完全移籍決定という二重の吉報が飛び込んできた。
ボルシア・ドルトムントのスカウトとして、セレッソ大阪でJ2を戦っていたMF香川真司を見いだしたシュツットガルトのスポーツ・ディレクター、スヴェン・ミスリンタート氏はクラブを通じて、3年契約を結んだ伊藤へ大きな期待を寄せた。
「ヒロキの能力とそのキャラクターは、われわれのチームにとって貴重な存在であり、買取オプションの行使は非常に早い段階から決まっていた」
昨夏を序章とするサクセスストーリーに、カタールの地へ通じる第一歩となる森保ジャパン初招集を刻んだ伊藤は、自身を含めた6人が最終候補に名を連ねる、ブンデスリーガ1部の最優秀ルーキーに選出される可能性も残している。 (文責・藤江直人/スポーツライター)