なぜ日本人ボクサーはタイのリングで勝てないのか…37歳の田中教仁がWBC王座に「死ぬ気で」挑むも判定負けで「鬼門」26敗目
突破口が見えかけていただけに三迫会長も悔しさを隠さない。
「チャンスはあった。何度も効かせていた。左フックで(王者の)腰を落とした場面もあったし、もう一歩。(王者の)目も腫れ、休みたい、逃げたい、ボディも嫌がっていることがわかった。ただ地元タイで見映えを良くすれば(ポイントを)取られないし、パンチも田中に当たって元気にさせてしまったところもある。試合内容、展開は想定通りだったが、本人が相手を見すぎて1発を狙いすぎたと思う」
急遽決まった世界戦だった。オファーは1か月前に届いたが、正式決定が伝えられたのは10日前だった。それでも2020年3月にタイに乗り込んでWBA世界同級スーパー王者ノックアウト・CPフレッシュマート(31、タイ)に挑戦し判定負けを喫していた田中は、「できればタイでもう1度やりたい」と願い、万全の準備をしていた。
暑さ対策に真夏の昼間にロードワークを敢行。
「若い頃の荒々しさを取り戻す」をテーマにトレーニングに取り組んできた。長男が生まれ、1人増えた家族の存在もモチベーションになった。長女が、前回の世界挑戦失敗のときに泣いていたという話を聞かされ「強いパパ。世界一の姿を見せたいと思う」と意気込んでいた。
名門、三迫ジムに男子ボクサーの世界王者は、1982年の元WBC世界ライトフライ級王者の友利正氏以来、誕生しておらず、先代を引き継いだ長男の三迫会長の悲願でもあったが、またしても5人目の世界王者誕生は先送りとなった。
田中は37歳。JBCがランキング外ボクサーの定年に定めている年齢だ。この日のファイトを見る限り、気力、体力、反応を含めて田中は、まだ終わったボクサーではない。ただ「これが最後のつもり」と進退をかけてリングに上がっていた。
兄が経営する解体関係の会社を手伝う形で仕事もしているが家族もある。その過酷な二刀流の戦いを今後も選択するかどうかはわからない。
田中は「今は何も考えられない」と言葉を絞り出した。
(文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)