なぜ森保監督は三笘が発信した「チームに約束事が必要」のSOSに「彼自身が戦術」と“禅問答”のような答えを返したのか?
右サイドで奮闘したFW伊東純也(29、ヘンク)に対しても、おそらく「戦術・伊東」という言葉を託している。選手と代表チームが進んでいく先を見すえながら、目の前の戦いであえて個の戦いを挑ませる狙いは理解できなくもない。
しかし、開幕が約5ヵ月後に迫ったカタールワールドカップで待つ戦いの厳しさを考えれば、ドイツ代表とのグループリーグ初戦までに残された時間の少なさを考えれば、この時点でチーム内の約束事がないという事態に対する理由にはならない。
チュニジア戦における三笘に対して、森保監督はこんな言葉も残している。
「相手の3人を引きつける場面もあったので、それだけでも他の選択肢が生まれる。自分の好きなプレーである突破する、というところではすっきりしないかもしれないが、他の選択肢がたくさん生まれている、ということを感じてもらえれば」
残念ながらこの時点で、三笘が抱いた危機感と齟齬が生じている。自身のドリブル突破でチャンスを作り出せなかった、という理由で三笘はストレスを募らせたわけではない。チームとして崩せなかった事実を、極めて深刻に受け止めていたのだ。
スコアこそ0-1と僅差だったものの、内容的には完敗だった6日のブラジル代表戦。アジア最終予選で無双状態だった先発の伊東も、ゴールに絡む仕事を託されて途中投入された三笘も、ともにサイドからチャンスを作り出せなかった。
しかも三笘は対面の右サイドバック、エデル・ミリタン(24、レアル・マドリード)に完璧に止められた。試合後にはこんな言葉を残しながら唇をかんでいる。
「(自分が)フレッシュな状態で対峙したのに、先発して疲れている相手に対応されてしまった。自分がそういう実力であることが、あらためてわかった」
スピードやテクニック、フィジカルの強さなどといった個の力を残り5ヵ月で飛躍的に伸ばす作業は極めて難度が高い。しかし、複数の味方が意図的に局面に加われば相手を惑わせ、複数の選択肢を生じさせた結果として後手を踏ませる。
例えば4-1で快勝した2日のパラグアイ代表戦では左サイドバックで先発し、A代表デビューを果たした伊藤洋輝(23、シュツットガルト)が、前方の三笘にボールがわたった場面で何度もオーバーラップを仕掛けている。ボールを持たずとも対面の相手選手を引きつける間接的なプレーで、三笘のドリブル突破を助けている。
チームとしてサイドから崩す上で、森保監督は左右のサイドバックが関わる基本的な動きであるフリーランニングに「チームの形として、今後やっていかないといけない」と遅まきながら言及。その上で三笘の今後へ、あらためて期待を込めている。
「チュニジア戦で(伊藤)洋輝に『すべてオーバーラップを仕掛けろ』と言っていれば状況は変わったと思う。しかし、最初からサポートを受けるのではなく、さらに独力で行ける選手になってほしい、という思いがある。そういうところも見ながら、試合の流れを感じながら指揮を執らせてもらっている」