なぜ浦和は3点差を追いつく執念のドローで不満蓄積レッズサポを納得させたのか…6連続ドローもシンプルなサッカー戦術に光明
左サイドで松尾のスローインを受けた途中出場のMF大久保智明(23)が、ゴールラインが見えるあたりから思い切ってドリブルを仕掛ける。2人を振り切り、ペナルティーエリア内へ深く侵入した直後にシュート性の強いパスを一閃。ゴール前にポジションを取っていたユンカーが、利き足とは逆の右足をワンタッチさせてゴールへ流し込んだ。
来日2シーズン目で初めてハットトリックを達成したユンカーが声を弾ませた。
「どのチームもどこかにスペースを空けてしまうもの。それを利用するには正しいポジショニングが必要だ。それが前半と後半の違いのひとつだったし、後半は攻撃的なサッカーができたので、ご覧になった方も楽しめたのかなと思う」
そして、大久保へスローインでボールを託した松尾は、ボールが左タッチラインを割るやいなや、すぐに自分へボールを投げてくれたボールパーソンを称えた。
「負けていたこともあって、リスタートもクイックでできた。ボールをすぐにわたしてくれなかったら、ゴールが決まっていなかったかもしれないし、とても大きなプレーだったと思う。スタジアムの雰囲気や後押しがあって、引き分けまで持っていけた。勝利まで導けたら最高だったけど、それでも大きな勝ち点1だったと思う」
結果だけを見れば6試合連続ドローと、クラブ最長記録を更新した。3月19日のジュビロ磐田戦で今シーズン2勝目をあげ、鹿島アントラーズ、マリノスに次ぐJ1通算450勝に王手をかけながら、2ヵ月も勝利から遠ざかっている。
清水エスパルスに勝ち点13で並び、得失点差でわずかに上回って順位を入れ替えた。それでも15位と、優勝を目指していたはずの3年計画の3年目で想定外の状況が続く。ただ、これまでの戦いとは異なる一面も確かにのぞかせた。
4月6日の清水戦の前半33分にMF江坂任(29)が決めたのを最後に、実に374分間も遠ざかっていたゴールを後半だけで3つももぎ取った。試合後にスタジアム内を一周した際には、万雷の拍手が浦和の選手たちへ降り注いだ。追い詰められた浦和を鮮やかに変えた、リスクを冒し続ける姿勢をロドリゲス監督も試合後に称えている。
「相当なリスクをかけた攻撃だったので、逆にマリノスに決められてもおかしくない場面も作られてしまった。そこを西川や守備陣、そして選手全員が体を張りながら守ってくれた。最後の最後まで、すべてをピッチで出し尽くしてくれた選手たちのスピリットに感謝している。これを残るシーズンの戦いでも活用して、気持ちを出していきたい」
試合展開によっては戦術を上回るものがある。惨敗必至の流れを自分たちの変化を介して強引に変え、手にした勝ち点1ポイントが、戦術家であるロドリゲス監督の思考回路に大きな影響を与えた跡がこのコメントからも伝わってくる。
もちろん、上位浮上を目指していく上で厳しい状況はまだ何も変わっていない。マリノスとの激闘をターニングポイントにできるかどうかは、2位につける好調の鹿島を中2日で再びホームの埼玉スタジアムに迎える、21日の第14節で明らかになる。
(文責・藤江直人/スポーツライター)