なぜ田中希実は4日間で3種目5レース出場の過酷な戦いに挑んだのか…2種目切符獲得のオレゴン世界選手権への効果は？

振り返ると、昨季の大ブレイクは日本選手権の経験が大きなステップになった。1500mは4分08秒39で連覇を果たすも、800mは中距離選手のラスト勝負に敵わず、2分04秒47の3位。約40分後に出場した5000mは2000m過ぎに引き離された後も粘り、15分18秒25の3位でフィニッシュ。その後はトラックに座り込んだ。

「今季は自分を超えるような練習ができていなくて葛藤もあったんですけど、昨年をなぞるだけでなく、新しいことにやっと前向きに取り組むことができました。1年に1回はきつさを超える日がないと、その1年間は成長できない。今日はその日になったと思います。東京五輪の予選・決勝という戦いに生きてくるのかな」

　そう話していた田中は東京五輪で大活躍する。5000mは0.38秒差で決勝進出を逃したが、自己ベストの14分59秒93をマーク。1500mは予選で4分02秒33、準決勝で3分59秒19と日本記録を連発した。

　今回の日本選手権で得た経験と自信は1カ月後のオレゴン世界選手権で“進化した走り”に“昇華”するだろう。

「今回は3種目に向き合ったことで、自分に負荷をかけて、火事場の馬鹿力を出すことができた。私は自分だけが苦しいと思い込んでしまうタイプなんですけど、自分が今まで葛藤してきたものに少しは勝てたんじゃないかなと思います。オレゴン世界選手権のスケジュールを考えると、即内定した1500mと5000mで出場する可能性が高いかなと思っています。東京五輪は5000mで決勝に残ることができなかったので、今年は両種目で決勝に進出して、しっかりと戦いたい」

　田中は2019年ドーハ世界選手権で初めてシニアの世界大会に参戦。東京五輪と合わせて合計6レースに出場しているが、うち5レースで自己ベストを塗り替えている。自己ベストがでなかったのは東京五輪の1500m決勝だけで、それもセカンドベストの3分59秒95で8位に入った。女子中距離としては93年ぶりの五輪入賞だった。

　日本が誇るワンダーガールは今夏のオレゴン世界選手権でどんなパフォーマンスを発揮するのか。またしても我々が予想する斜め上の結果を残すかもしれない。

（文責・酒井政人/スポーツライター）