なぜ甲子園凱旋のBIGBOSS新庄は阪神に6点差の逆転負けを許したのか…成功した奇策と堅実を見失ったツケ
3回の甲子園のざわめきは、これだけで終わらなかった。
申告敬遠で一死満塁とチャンスが広がった場面で宇佐見のボールワンからの2球目になんと今度はエンドランを仕掛けたのだ。全走者が同時にスタート。宇佐見はゴロを転がそうとコンパクトにバットを出したため、打球はライナーでレフト前を襲うタイムリーとなり2人が生還して7―1と主導権を握った。
「新庄監督の打つ手は、むちゃくちゃではない。計算された作戦。宇佐見は足がないので一番怖いのが併殺打。3者同時スタートだと、そのリスクは回避できる。またバントの技術のいるスクイズよりも、ゴロを打ての方が、打者は、失敗したらどうしようとは思わず、ポジティブに楽な気持ちとなり成功確率はスクイズよりも高まる。新庄監督は、何度か走者三塁でエンドランを仕掛けているが、打者心理を考え、より成功の確率が高い作戦を採用しているんだと思う」と高代氏。
この走者三塁での「エンドラン」を考案したのは1975年からリーグ4連覇の阪急黄金期を作った上田利治氏とされる。上田氏は、「ゴロ・ゴー」「ギャンブルスタート」「エンドラン」の3種類のサインを使い分けて1点をもぎとる野球でパ・リーグを席巻した。高代氏も日ハムでの現役時代の1984年に上田野球の薫陶を受けた植村義信監督の時代に一死三塁でエンドランのサインを経験している。当時は「ゴロ打ち」という呼び名のサインで、近鉄戦で300勝投手の鈴木啓示氏のスクリューボールをバットに当てたという。
だが、ここから先の采配には疑問が残った。
この回、さらに一死一、二塁から投手の上沢に打たせて、ショートへの併殺打に終わったのである。 「ツーアウトにしても二、三塁に進めて、好調の浅間に回すのがセオリーだが、そういう思考を新庄監督は持ち合わせていない。黙ってひとつのアウトを渡すより、前に打球を飛ばせば何かが起きるという考え方なのだろう」と高代氏。
虎に大逆転を許した理由につながるBIGBOSSの疑問采配はまだあった。
4点差となっていた6回に先頭の宇佐見が二塁打で出塁したが、続く上沢の初球にバントのサインを送りファウルとなると、バスターのサインに切り替えた。上沢の打球はショートやや右へのゴロ。二塁走者の宇佐見は三塁を狙い、一度はセーフのジャッジが下されたが、タッチした佐藤が、自らリクエストを示す四角い枠を描くジェスチャーをベンチへ送り、矢野監督がリクエストして判定が覆ったのだ。