なぜ阪神・矢野監督の“CSスペシャル采配”が成功したのか…2位の横浜DeNAを下し初戦勝利ファーストS突破確率は86%
三浦監督も勝負に出た。
とっておきの代打の“切り札”オースティンをコールした。岩崎はストライクが入らなかった。四球で歩かせ、一死一、二塁となり横浜DeNAのキーマン、最多安打タイトル獲得の佐野を迎えた。肝を冷やす大ファウルのあとの4球目。ストレートが甘く浮いたが球威で優った。佐野にポーンと打球を打ち上げさせた。一塁ファウルフライでツーアウトまでこぎつけると、4番の牧を迎えたところで矢野監督がまた動く。
なんと前倒しで湯浅を投入したのである。
回跨ぎはプロ初の経験になるが、湯浅に心の準備はあった。
「しっかりと自分の中では準備ができていた。バッターへ向かっていくだけ。ヒットも打たれたくない、気持ちでも負けないとマウンドに上がった」
しかも、矢野監督は、次のイニングの打順と、相性、経験を考えてキャッチャーを坂本から梅野に代え、バッテリーごとチェンジしたのである。こういう細事がゲームの流れを引き寄せるのだ。
湯浅は力で押した。全球ストレート。最速は152キロで、横浜DeNAの“顔”である牧が、カウント2-1から振り遅れてストレートに空振りした。その直後の5球目だった。勝負球のフォークは落ちなかった。だが、そこまでの気迫に溢れたストレートが効いていて、そのフォークは、まるでチェンジアップのような役目を果たし牧はスイングアウトである。
「フォークが浮いちゃったが、結果的に三振で良かった」
渾身のガッツポーズ。
湯浅は、9回も横浜DeNA打線を無失点に抑え、“プロ初セーブ”をこの大事なCSの舞台で記録。試合後にはヒーローインタビューに指名された。
在阪メディアの報道によると、矢野監督は、選手の準備力を称え、「全員でつないで勝てた。オレたちの野球をやってくれた」と語ったという。
キャンプイン前に異例の今季限りの退任を発表。Bクラスに終わっていれば、もうユニホームを脱いでいるところだったが、「最後に粘りに粘って選手達がもう1回チャンスを作ってくれた」(矢野監督)。その素直な感謝の気持ちが、就任4年目の最後の最後に、やっと指揮官の采配を開き直らせたのだろう。加えて監督として3度目のCS舞台。短期決戦の指揮を執ってきた経験から来る“勘”も働いたのかもしれない。
一方の横浜DeNAは、すべてが空回りしていた。
「いろいろとやったが、結果として得点に結びつかなかった」
三浦監督が敗戦の弁を絞り出す。
レギュラーシーズンと同じく、青柳対策に宮崎、ソトを外して、左打者を6人並べ、“キラー”楠本に「昨夜からいろいろと考えて球場に来てから決断した」と“秘密兵器”のベテラン藤田を「6番・三塁」でスタメン起用。“送球イップス”の傾向にある青柳を心理的に苦しめようと、投手の今永まで、ほぼ全員がバントの構えをして揺さぶったが、6回を無失点に抑えこまれた。