なぜ36歳のベテランフッカー堀江翔太は約2年半ぶりにラグビー日本代表候補に復帰したのか?
トレーナーと取り組んだ肉体改造
身体動作、戦術理解にも造詣が深い。
佐藤義人トレーナーとの二人三脚で鍛錬し、加齢に反して走った時の身体が軽くなっていると実感。いまでは「小中学生のうちから、正しい身体の使い方、筋肉の付き方(を学んでほしい)」と、運動そのものについての考えを深めている。
さらに所属する埼玉パナソニックワイルドナイツでは、コーチと共に防御システムの構築にも力を発揮。相手と間合いを詰めるタイミング、タックルと、その後の起き上がりの質をはじめ幾多の項目を整理した。 2021年に同部に加入した山沢京平は、「身体の動き、ラグビーの事を、すごくわかっている。わからないことなんてあるのかな、というくらい」と感心したものだ。
若手に刺激を与えるのは、ナショナルチームにおいても同じだろう。日本代表はコロナ禍により2020年は活動できなかったため若手に国際経験を積ませる必要性を感じている。
ただ、前出の藤井氏は「若い選手だけでそこへ行ってボロ負けして帰ってきても、そういう(意味のある)経験ができるわけではない」との考えを持ち、実績と知識のある堀江が、若手の手本となることへの期待が大きい。
「例えば堀江のような経験のある選手と(過酷な環境下で)過ごすごとで、(若手のプレーの)安定につながっていく。(経験者と若手を)ミックスしながら、『彼ら(若手)をいかに早く成長させるか』を考えながらやると思います」
歩く教材としての堀江の価値が今回代表候補に復帰させた理由のひとつだ。 堀江は、W杯日本大会以来、日本代表とは距離を置いてきた。
2021年の春、秋の代表ツアーにも参加しなかった。堀江の意が汲まれ、招集そのものが見送られたと言える。ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ、アイルランド代表、スコットランド代表などと行った当時のテストマッチでは、堀江と同じ埼玉パナソニックワイルドナイツ所属の坂手淳史がレギュラーフッカーを務めた。
堀江はその間、前出の佐藤氏と肉体強化に注力。その決断が奏功し、今季のリーグワンでは堀江ならではのパフォーマンスを披露し続けてきた。
例えば大型選手とぶつかり合った時。その衝撃で向こうが半歩、後退するなか、堀江はヒットした瞬間の体勢のまま次の動きに移れる。ひとりの相手が「死に体」になる間、パス、キック、2人目の防御への仕掛けと多彩なアクションを起こせるのだ。
「身体の使い方ーー背中(の意識)だったり、足の(の出す)タイミングだったりとかーーを上手にすれば、その瞬間、(間合いが)少ない距離でも強く当たれる。そこで(相手との間に)隙間ができる、って感じですね」
フッカーには主将の坂手がいるため、堀江は今季は14試合中13試合で途中出場。そのうち10試合は、後半10分以降の投入となっている。接近する相手を突き放したり、僅差でのビハインドをひっくり返したりするのが役割だ。現代ラグビーにおいて、リザーブは補欠ではない。今季のワイルドナイツは、実戦全勝で12チーム中2位。4強によるプレーオフ進出を決めた。その過程で堀江は、日本代表への思いをひそかに温めていたのだ。