なぜF1角田裕毅のアルファタウリ残留の発表が遅れたのか…背景にある”相棒”ガスリーの去就問題
角田もガスリーもアルファタウリのドライバーだが、彼らの契約を決めているのは、親会社のレッドブル(マルコ)だ。ガスリーは2017年にアルファタウリの前身であるトロロッソからF1にデビューした後、2019年にレッドブルへ昇格したものの、成績不振によって、シーズン途中にアルファタウリへと降格していた。その後、2020年にアルファタウリで自身初優勝を果たしたものの、再びレッドブルから声がかかることなく、今年6シーズン目のF1を過ごしている。つまり、ガスリーとしては2023年もアルファタウリに残留するという選択肢は最高というわけではなく、ほかに行くところがなかったからだった。
ところが、ガスリーがアルファタウリに残留を発表した6月以降、アストンマーティン、アルピーヌ、マクラーレンのシートをめぐる状況が次々と変化した。この一連の騒動でアルピーヌのシートが1つ空いたままとなった。アルファタウリよりもランキング上位であるだけでなく、フランスに籍を置くアルピーヌは、フランス人ドライバーのガスリーにとっては魅力的なチームだった。 またレッドブルにとっても昇格させる見込みがないガスリーとの契約はいずれ解消しようとしていた。もしアルピーヌが受け入れてくれるのなら、違約金なしでガスリーを放出し、若手ドライバーにチャンスを与えることができる。その若手ドライバーとは、アメリカのインディで活躍しているコルトン・ハータだ。
しかし、ハータはF1でレースをするためのスーパーライセンスを取得するために、F1以外のカテゴリーで獲得しなければならないスーパーライセンスポイントが足りていないという問題に直面。レッドブルは国際自動車連盟(FIA)などに特別措置で発給してもらえないかと試みたが、成功しなかった。
こうしたガスリーをめぐるシートに関する交渉が水面化で繰り広げられていたため、アルファタウリはなかなか角田の残留を発表できず、昨年よりも発表が遅れたと考えられる。
ただし、角田のコメントにガスリーの名前がなかったことからも、ガスリーの2023年はまだ確定していない可能性が高い。現在、アルファタウリはスーパーライセンスが発給されないハータに代わって、前戦イタリアGPを虫垂炎で欠場したアレクサンダー・アルボンの代役として急きょウィリアムズからF1にデビューしながら、いきなり入賞したニック・デ・フリースと交渉していると言われている。
その交渉が確定していない中、アルファタウリが角田の残留を発表したのは、チームが角田と結んでいる2023年に残留させることができるオプション契約の期限が2022年9月末までだからではないかと考えられる。それを過ぎると角田は2023年に向けた交渉を自由にでき、アルファタウリは最悪ガスリーと角田の2人とも手放しかねない事態となるため、ここにきてアルファタウリは角田を確実に押さえておくことにしたのではないか。
何より、その前提として、角田に2023年もF1を戦うだけの能力があったことも忘れてはならない。F1のシートは20しかなく、その予備軍は片手では足りないほど大勢いる。その中から、アルファタウリが選んだのが角田だったということだ。
(文責・尾張正博/モータージャーナリスト)