J2のヴァンフォーレ甲府が悲願の天皇杯初優勝。J2勢としては史上2チーム目の快挙だ(写真:西村尚己/アフロスポーツ)
J2のヴァンフォーレ甲府が悲願の天皇杯初優勝。J2勢としては史上2チーム目の快挙だ(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

なぜJ2甲府の天皇杯V“史上最大のジャイキリ”が実現したのか?

 2018シーズン以降はJ2の戦いが続き、今シーズンにいたっては泥沼の7連敗で、22チーム中で18位に低迷したまま天皇杯のファイナリストになった。大ベテランの域に達した山本の出場機会も、8月以降ではフル出場した大宮アルディージャとの第35節だけにとどまっていた。
 それでも、身長175cm体重69kgと決して大柄ではないサイズで、センターバックだけでなくボランチでも生き抜いてきた山本のテクニックは、甲府の武器として受け継がれている。
 天皇杯で5度の優勝を誇る鹿島のホーム、県立カシマサッカースタジアムに乗り込んだ5日の準決勝。両チームともに無得点の均衡を破った、FW宮崎純真(22)の決勝点を自陣からの正確無比な縦パスでアシストしたDF浦上仁騎(25)は勝利の余韻が残る取材エリアで、J1とJ2のリーグ戦を合わせて557試合に出場した実績を持つ山本について、こう言及していた。
「キックがものすごく上手いベテランの山本選手に、ボールを置く位置や視線、体の向きを教えてもらっていて、あとはそこに自分の感覚を上手く擦り合わせながら練習しています。山本選手はあのキックがあるから多分ここまでやれていると思いますし、僕には到底真似できないキックがいっぱいあるので、あの人と一緒にやれているのは僕にとってはメリットしかないと思っています」
 大きく年が離れた後輩たちへ、匠の技を惜しげもなく伝える姿を間近で見てきたからこそ、河田もヒーローインタビューで「素晴らしい選手がいるんですけど」と山本に言及したのだろう。
 J3のAC長野パルセイロから加入して2シーズン目の浦上は、残り2試合となった今シーズンのリーグ戦で全40試合、3600分にわたってフルタイム出場を続けている。しかし、延長後半に入って足がつり、同じく足を痛めたMF山田陸(24)とともに交代を余儀なくされた。
 代わりに天皇杯の鳥栖戦と福岡戦でベンチから外れ、鹿島戦ではリザーブだった山本にボランチでの出番が急きょ訪れた。PK戦での一撃では広島のGK大迫敬介(23)の逆を突いた。しかし、たとえコースを読まれて反応され、ダイブされていても届かないコースへ突き刺した。生きるか死ぬかの土壇場で、長年にわたって磨き上げられてきたキックテクニックが最高の輝きを放った。

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