なぜJ2甲府の天皇杯V“史上最大のジャイキリ”が実現したのか?
山本以外で決勝のピッチに立った16人のうち、河田とキャプテンのMF荒木翔(27)を除いた14人が2020シーズン以降に甲府へ加入した。荒木の交代とともにMF石川俊輝(31)へ渡された白色のキャプテンマークは、延長後半7分にピッチへ入ってきた山本に託された。甲府の歴史の大半を知るレジェンドを先頭に、一気に頂点へ駆け上がりたいという思いが込められていた。
「本当に少しだけ、恩返しができたかなと思います」
天皇杯制覇をチームへ捧げた山本は、20歳代の選手たちが大半を占める今シーズンの甲府を見わたしながら、こんな言葉も紡いでいる。
「これだけのお客さんの前で堂々とプレーしていたし、本当にたくましくなったと思います。自分たちの持っているサッカーではなかったかもしれないけど、結果にこだわって全員で頑張れました」
山本が残した言葉のなかに、ジャイアントキリングを連発した理由が凝縮されている。
シンガポール代表監督をへて、今シーズンから約3年8ヵ月ぶりに復帰した吉田達磨監督(48)のもと、最終ラインから繋ぐスタイルを標榜してきた。J2戦線ではスタイルにこだわるあまり、中途半端な形でボールを失う展開から余計な失点と黒星が増え、低迷につながってきた。
一転して格上のJ1勢と戦う天皇杯は5バック気味で守備ブロックを形成し、割り切って蹴り合うサッカーを展開してきた。劣勢は織り込み済みの展開で、吉田監督は「いままで培ってきたものを、積み上げてきたものをコツコツと、大切にして戦ってくれた」と振り返る。
もっとも、手にした快挙が完成形ではない。
河田はこんな言葉を残している。
「来シーズンはJ1へ上がりましょう」
2011年度のFC東京以来となるJ2勢の天皇杯王者の肩書きとともに、クラブにとって未知となるAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の戦いも加わる来シーズンへ。敵地に乗り込む19日のFC町田ゼルビア戦、そしてホームのJITリサイクルインクスタジアムにいわてグルージャ盛岡を迎える23日のJ2最終節から、J1仕様のチームを目指した甲府の新たな戦いが幕を開ける。
(文責・藤江直人/スポーツライター)