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J2甲府の吉田監督は4バックから3バックに変えて鹿島対策を練った(資料写真:森田直樹/アフロスポーツ)
J2甲府の吉田監督は4バックから3バックに変えて鹿島対策を練った(資料写真:森田直樹/アフロスポーツ)

なぜJ2甲府は天皇杯準決勝でJ1鹿島を倒す”ジャイアントキリング”を成し遂げたのか?

ボールをつなぐスタイルにこだわったあまりに、リーグ戦では不用意な失点や黒星が増えた。対照的に天皇杯でJ1勢と対戦するときは立場が逆になる。浦上が続ける。
「J1の選手にとって顔なじみの選手がいないというか、J2の僕たちのことはサッカーのやり方も含めてそこまで知らないと思うんですね。スカウティングはしているはずですけど、特に天皇杯ともなれば格上が格下と戦うのは非常に難しい。逆に僕たちは上手く戦えているというか、今日なんかも相手にボールを持たれる時間帯が非常に多かったですけど、ああいう戦い方を格上の相手にはしていかなければいけない。そういったところでギャップがあるのかな、と」
 リーグ戦で結果を出せなくても、チーム全体として絶対に下を向かなかった。
「ひたむきに努力してきた選手たちには、積み上げてきたものがある。彼らに力がなければ、ラッキーだけでJ1のチームを4回も続けて倒せない。最後はハングリーな気持ちが出たと思う」
 吉田監督が積み重ねを強調すれば、チームでただ一人、リーグ戦で全39試合、3510分にわたってフルタイム出場を続ける浦上も指揮官に思いをシンクロさせた。
「サッカーは難しくて、シーズンを通してずっといいときなんて本当にない。それでも、苦しいときにもやめないというか逃げずに、常にベクトルを自分に向けないと成長できない。リーグ戦は本当に苦しい状況だけど、ずっと出ている僕自身は誰よりも悔しい思いをしている分、人のせいにはしたくないし、甲府のエンブレムを背負っている以上、毎試合全力で戦うしかない」
 日々の努力が報われたのが、実は決勝点だった。
 宮崎へロングパスを出すモーションに入りながら、浦上は蹴る直前に一瞬だけ左サイドへ視線を送っている。これは高度なフェイントであり、本当の狙いは自分の右斜め前方だった。鹿島のDF関川郁万(22)がわずかながら視線につられ、宮崎に走り込まれる隙を作ってしまった。
 浦上はチームの全体練習が終わった後に、居残りでロングパスの練習をひたすら繰り返してきた。そして、個人練習でパスの受け手を務めてきたのが宮崎だった。
「シーズンを通して、浦上選手と一緒に狙ってきた形なんです」
 中学生年代に所属したFC多摩ジュニアユースのチームメイト、関川との駆け引きに勝った宮崎が嬉しそうに振り返れば、茨城県古河市出身で、小学生のころにはカシマスタジアムのスタンドで鹿島の強さを目の当たりにした経験を持つ浦上も、こう続けた。
「宮崎選手には常に試合前に『狙っていて』と言っているので」
 ベストメンバーの鹿島相手にいい意味で割り切り、必要ならばこだわりも捨て、その上で培ってきた努力をゴールへ昇華させた。公式会見に臨んだ鹿島の岩政大樹監督(40)をして「クラブ史に残る大失態だと思っている」と言わしめた大金星を、浦上は笑顔でこう位置づけた。
「今日のアグレッシブさをリーグ戦にもつなげていかなきゃいけないし、その延長線上に天皇杯の決勝戦がある。ここまで来たらてっぺんを目指して、全員で戦っていきたい」
 2時間遅れで開始されたもうひとつの準決勝では、広島が延長戦の末に京都サンガF.C.を2-1で振り切った。2011年度のFC東京以来となるJ2勢王者を目指す甲府にとって、5試合連続となるJ1勢と対峙する決勝戦は、16日午後2時に日産スタジアムでキックオフを迎える。
(文責・藤江直人/スポーツライター)

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