なぜV4に成功した井岡一翔はKO決着を封印したのか…”リトル・パッキャオ”が「当たっても倒れる気がしなかった」と嘆いた技術
井岡は、記者会見場に”親友”槙野智章がリングサイドから投げ入れたヴィッセル神戸の移籍記念ジャージを着て現れた。浦和レッズでのラストマッチとなる19日の天皇杯決勝で惜別のゴールを決めた槙野から「一翔につないだ」とのメッセージをもらっていた。その決勝ゴールに「刺激をもらった」という井岡は、勝利会見で、このジャージを着ることを約束していたという。
「世界タイトルマッチで勝ち続けるのは簡単なことじゃない、結果を残すことができてよかった」
そしてタフな挑戦者をこう称えた。
「気持ちがタフで、いいパンチが当たっても崩れない。やり辛かった。打たれ強いと思った」
対する敗れた35歳の“リトル・パッキャオ“は打ちひしがれていた。
「パンチとかも逃がされている感じがして自分のボクシングをさせてもらえなかった。パンチが当たっても倒れる気がしなかった。教科書通りの完璧な隙のない選手」
3週間前に急遽試合が決まったことへの準備不足は、一切言い訳にしなかった。
井岡の“魔界“に誘いこまれていた。
序盤から攻撃的に出た。2ラウンドには左ストレート、3人のジャッジに支持された3ラウンドには、左フックをクリーンヒットしたが、「顔色も変えない」井岡の姿に動揺した。
15勝14KOの高いKO率を誇るパンチャーを井岡は「世界で戦っている僕からすれば普通。驚くほどパンチ力があると思わなかった」と言う。
井岡は鉄壁のディフェンスを崩さなかった。
9月に行ったフランシスコ・ロドリゲス・ジュニア(メキシコ)とのV3戦では、意外に苦戦した。集中力に欠けて出来そのものが悪かったが、井岡には迷いがあったという。
「ここまでくると逆に選択肢が増え、何がいいのか、何が悪いのか、迷いが出て確信が持てなくなる。だから、今回は元に戻した。余計なことをせずシンプルにまず守りを固めた」
増えすぎた技術の引き出しが、逆に井岡らしさを失うことにつながっていたのである。今回は、その迷いを消し、ガードを固めステップバックで打たれない距離を保ち、よりディフェンシブにスタートを切った。
「まず土台を作った。相手も世界初挑戦で何をしてくるかわからない。どしっとガードを固めて、そこから組み立てた」
2ラウンドに入ると距離を詰め、近い間合いに挑戦者を引き込んだ。
「長い距離で戦ってもメリットがない。お互いにパンチが当たる距離で、僕だけが当てて向うのは外すのが理想。そこを狙っていた」
足を止めてステップも最小限。39歳のWBC世界バンタム級王者、ノニト・ドネア(フィリピン)彷彿させる究極の”省エネ”ボクシングでもある。