トレード?それとも長期残留?エンゼルスが大谷翔平と1年約43億円で電撃契約を結んだ裏事情を紐解く…見えてくる未来図とは?
「おそらく、市場価値を下回っているのではないか。調停になった場合、エンゼルスは3000万ドル(約43億2000万円)を提示したと思う。大谷側は5000万ドル(約72億円)を主張してもおかしくない。この時期にこの額で合意できたことに、ミナシアンも驚いているのではないか」
ペリー・ミナシアンGM(ゼネラルマネージャー)を昔から知るエンゼルスのある関係者は、球団が大谷翔平(28)と来季の契約を1年3000万ドルで合意したと発表したことについて、そう解説した。
ただ、この契約でなにかが劇的に変わったわけではない。トレードの可能性が高くなったわけでも、低くなったわけでもなく、再契約の可能性が高まったわけでも、消滅したわけでもない。エンゼルスは、このオフにしなければいけないことを前倒ししたまで。あくまで調停を回避しただけで、新しいオーナーが決まるまで、積極的に動けないことを改めて証明した形になった。
年俸調停の権利を持つ選手の契約としては、2020年1月に2700万ドル(約38億8800万円)で契約したムーキー・ベッツ(当時レッドソックス)を超えて過去最高。ただ、この話は、それ以上でも、それ以下でもない。
このタイミングでの発表そのものは異例。ベッツがそうだったように、こうしたケースでは、契約が1月までずれ込むケースが少なくない。では、早期決着することで生まれた3か月という時間は、どんな意味を持つのか。
前出の関係者は、「球団売却をスムーズに進めるため」と説明した。
「大谷の来季の年俸がいくらになるのか、そもそも、彼が残るのかどうか。不確定なうちは、適正買収額を算出しにくい」
すでに始まっている水面下での売却交渉で、それを求められた可能性もある。
もっとも、大谷の来年の年俸が確定したことで、動きやすくなったのはトレードで大谷の獲得を目指すチームも同じ。複雑な年俸調停のリスクを抱えずにすむことに加えて、年俸がはっきりしたことで、予算も組みやすくなる。
ただ、「トレードは、プライオリティということでいうなら、一番低い」と、先ほどの関係者は読む。
「球団売却成立前のトレードなど、チームは考えていない。日本人のグループも買収に名乗りを上げているのに、そんなことをしたら彼らが撤退し、買収額も下がる」
売却成立後、新オーナーの方針次第ではトレードもありうるが、「いや、それもどうだろう?」と否定的だ。
「マーケティング的にも戦力的にも、もっとも価値のある選手を手放す理由は見当たらない」
そもそも新しくオーナーに就任して、最後の仕事が大谷のトレードではファンの反感を買う。売却を決めた現オーナーのアート・モレノ氏はいま、表彰式などでフィールドに足を踏み入れるたびにブーイングされているが、最初でつまずきたいとは誰も思わない。
とはいえ、エンゼルスとしては最悪のシナリオを想定しておく必要はある。それは、売却成立が遅れることでトレードができず、大谷が来オフにFAとなったあとで移籍されることだが、「それを防ぐために売却を急いでいる」と、同じ関係者は指摘した。