ドローもJ2降格圏を脱した神戸の大迫勇也が鹿島戦で派手なゴールパフォーマンスをした本当の理由とは?
4試合連続のベンチスタートだった大迫は後半、時間にして30分ほどのプレーを予定していた。しかし、EAFF E-1サッカー選手権に臨む森保ジャパンに招集され、日本代表復帰を果たしたFW武藤嘉紀(30)が前半の段階で右足首を痛めてしまう。プレー続行が不可能となり、前半39分に大迫との交代が告げられた。
しかし、大迫のコンディションは万全ではない。大迫自身は「それはあまり教えたくない」と詳細に関しては口を閉ざすが、怪我を抱えながら、100%のプレーを見せられる時間を少しずつ伸ばし、ピッチに立つときには違いを生み出す役割に徹している。
武藤が獲得したPKを託され、ゴール左上へ豪快に突き刺して勝利した9日のジュビロ磐田戦後の取材エリア。コンディションを問われた大迫は「少しずつよくなっているんですけど……」と状況を明かしながら、胸中に抱く複雑な思いも口にしている。
「痛みが取れれば、もっと出たいんですけど。これ以上プレーしたらリバウンドも出てくるし、難しいところがありますね。もどかしいけど、いまできることを、という感じですね。チームに勢いをもたらすことが、いまの自分の役割なので」
怪我をさかのぼっていけば、おそらくは3月の戦いに行き着く。武藤をはじめとしてフォワード陣に故障離脱者が続出した苦境で、大迫自身も右足に裂傷を負った。しかし、抜糸も済ませない状況で、メルボルン・ビクトリー(オーストラリア)とのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)東地区プレーオフに先発出場した。
果たして、延長戦を含めた120分にフル出場し、2ゴールを決めて勝利に貢献した大迫は、開幕から未勝利が続いていたJ1リーグ戦でも、メルボルン・ビクトリー戦から中3日の過密日程で行われた清水エスパルス戦で強行出場している。
しかし、両チームともに無得点で迎えた後半32分に大迫はベンチへ下がっている。三浦淳寛監督(当時)は、攻撃の核を交代させた理由をこう語っていた。
「ACLのプレーオフを戦った後で、足の状態が万全ではない状態でプレーしていた。できるところまでプレーしてもらったが、両足がつったので交代させました」
代償は大きかった。アジア最終予選へ向けて招集されていた森保ジャパンを辞退せざるをえなくなった大迫は、その後もなかなかコンディションが上がらない。ブラジル代表戦など4試合を戦った先の6月シリーズでも選外になった。 常連だった日本代表から遠ざかっている間には、神戸で結果を出せていない自分自身を奮い立たせるように、代表復帰を果たす上でのノルマをこう語っている。
「正直、いまのままじゃ(カタールワールドカップの)代表に選ばれないと感じている。僕自身、チームとしても、個人としても結果を出せていない。まずは神戸でのこの状況を少しでも好転させたいし、自分に対してもプレッシャーを与えていきたい」
開幕から4ヵ月あまりで監督交代が3度を数えるなど、ピッチの内外で迷走した神戸は5月中旬から最下位に低迷し続けた。責任を感じているからこそ、戦列を離れて治療に専念する選択肢は大迫にはなかった。100%でプレーできる時間限定で途中出場しながら、チームの攻撃にスイッチを入れる役割を果たしていく道を選んだ。