ファイトマネー推定3億円に東京ドーム進出プラン!井上尚弥が描く12月国内開催予定の4団体統一戦での「バンタム最高傑作」
WBAスーパー、IBF、WBC世界バンタム級3団体統一王者の井上尚弥(29、大橋)が28日、横浜の大橋ジムで7日にノニト・ドネア(39、フィリピン)をTKOで破って以来の練習を再開した。次なる目標は、12月に国内開催で交渉が進んでいるWBO世界同級王者のポール・バトラー(33、英国)との4団体統一戦。井上は、史上7人目(4団体統一王者から勝った王者、WBCフランチャイズ王者が含まれたライト級のティオフィオ・ロペスを除く)の偉業を達成するための試合をドネア戦を超える「バンタム最高傑作」にしたいという。大橋秀行会長は、その試合を軽量級史上最高額となる推定3億円のファイトマネーとすることを約束。また将来的に日本人ボクサーがメインを張れば、初となる東京ドーム進出を果たしたいという壮大なプランをぶち上げた。
「バンタム級でやり残した試合はあとひとつ」
あの衝撃のドネア戦のTKO勝利から1か月も経過していない。
一夜明け会見で何をしたいか?と聞かれ「練習」と涼しい顔で応えたモンスターは、早くも次へ向けて始動した。約50人ものマスコミに取り囲まれた中で、シャドー、サンドバック、ミット打ち、再びシャドーの軽いメニューを消化した。サンドバックでは、左ジャブの高速3連打を打ち、ミット打ちでは、右のクロスから左ボディの返しのコンビネーションブローを確認するなど、その探求心や姿勢は、3団体統一王者にふさわしいものだった。
「色々と…空き巣などもあり、(ドネア戦の)直後は気持ちを休めることができなかったが、3週間で、気持ちも休めることができた」
ドネア戦の日に神奈川県の自宅が空っぽになるタイミングを狙って空き巣に入られた。 「まだ犯人はつかまっていないんですよ」
ゴング前に事件は発覚していたが、井上の妻と母親が試合への影響を考えて情報をストップ。井上だけでなく父の真吾トレーナーにも伏せていた。試合後、ようやく井上が知ることとなったが、現場検証に立ち会う必要があり、身内で予定していた祝勝会も中止にして、すぐさま会場から自宅へ戻った。 「空き巣って入られたことがなかったので、どんなのかワクワクしていた」と気楽な気持ちで帰宅したが、「ザ・泥棒」というくらいに荒らされていた自宅の様子に「腹立たしい。徐々に怒りが増した」という。
これまでは世界戦前には、新型コロナ対策もあり1か月ほどホテル暮らしをしていたが、真吾トレーナーの住む実家が近くにあるとはいえ、自宅に家族だけを残す不安もあり、次回からは、それも止め、試合の日には「誰かを置いていく」という。
次なるターゲットは決まっている。残りひとつのベルトを持つWBO王者、バトラーとの4団体統一戦だ。
「バンタムでやり残した試合はあとひとつ。バンタムに転向したのが2018年。いい戦いがバンタムでやれた。あとひとつをしっかり取りにいけたらなと思う」
まだ正式契約は締結していないが、この日、そのバトラーと契約を結ぶプロモート会社「プロべラム」が公式サイトに、なんと井上とバトラーのフェイスオフの合成写真を掲載したのだ。
大橋会長は「無許可です」と笑ったが、井上もその画像を見たという。 「もう向こうのプロモーターもやる気なんだなと。気持ちも高まりますよね」
12月、国内開催を目標に水面下で交渉が進んでいる。
まだ井上はバトラーの映像を詳しくは見ていない。だが、「なんとなくの雰囲気はわかっている。これから照準を合わせてイメージしていく」という。
「技術的な部分は、バトラー対策として考えていく。ドネア戦では、減量、リカバリーがうまくいった。そこは維持したい。ただもっとスムーズにやりたいことが出せるように練習で課題をみつけていく」
元3階級制覇王者の“激闘王”八重樫東トレーナーの指導で取り組んでいる肉体改造は、ちょうどバトラー戦で1年となる。その部分での上積みも計算に入れたいという。
大橋会長も「リズムが違うから」とのバトラー対策として、初めて欧州からスパーリングパートナーを呼ぶプランがあることを明かした。
井上には、もうひとつの戦いがある。
「ドネア戦以上の結果はない。あれだけのパフォーマンスを見せ、それだけ次も期待されることを重々承知の上で挑む。最高の自分をさらに超えなければならない」
ドネア戦の自分を超える内なる戦いである。
――4団体統一戦でバンタム級の井上尚弥の最高傑作を見せたいのか? そう問うと井上では「そうです」と、力強くうなずいた。
練習後に囲み取材の時間が設けられ、井上は、そこでプロ論を展開させた。
「お客さんやファンの目線を無視して、ただ勝つ試合は楽ですよ。リスクを冒す戦いをせずに、つまらない試合でポイントを稼いでの判定勝ちはいくらでもできる」
たとえば、4団体統一を狙う技巧派のバトラーにリスクを負わない試合を選択すれば勝利はたやすい。しかし、井上は、「プロとしてその戦い方は自分のスタイルではない」と断言するのだ。
大橋会長も、そのバンタム級の集大成にふさわしい条件を用意することを明かした。
「すでにファイトマネーは史上最高額だったけれど、さらに次も最高額となる」
ドネア戦のファイトマネーが2億円オーバーとされているが、今回は、推定3億円のビッグマネーとなる。日本だけでなく、世界的に見ても、軽量級のクラスで、この額は破格だ。
井上も、このファイトマネーの価値をこう位置づけた。
「ライトフライ級で初めて世界を取ったときには、(ここまでファイトマネーが上がるとは)思ってもいなかった。プロ(ボクサーを)目指す子供たちに、世界チャンピオンになりたいと思う以外にも夢を見させてあげたい。そこまでいけば、そういうファイトマネーをもらえるのかと夢を与えられる。今の流れはすごくいい」
そのファイトマネーを生み出しているのが、急速に動き始めた有料配信の流れだ。19日に東京ドームで開催された格闘技の那須川天心vs武尊戦は地上波がなく、ABEMAでPPV配信されたが、50万件もの契約件数があった。一般販売は5500円。単純計算すると約27億円の売り上げである。
大橋会長は、「他競技だが、これまで日本では“ない“とされていたPPV市場を顕在化した大きな出来事だった。ボクシング界にとっても水先案内人となる」と、その流れを大歓迎した。
そもそもは井上が昨年12月のアラン・ディパエン(タイ)との国内凱旋試合で地上波ではなく、本格的なPPVを始めたのが、有料配信時代の幕開けだった。
井上も「時代がガラっとほんとに早い流れで変わっていくんじゃないですか」という。