ボクシング界に超新星現る…狙っていた世界最短KO記録は”幻”に終わるも鈴木稔弘が25秒の衝撃TKOデビュー!
ボクシングを始めたきっかけはダイエット。小学校時代は、兄弟共に60キロを超えていた肥満で、父親にダイエットのために自宅近くのジムに通わされた。空手はすぐに辞め、水泳は「帰りに買い食いをして効果がなかった」が、ボクシングは鈴木兄弟を魅了した。
兄は、アンダー15の大会で優勝するなど、すぐに頭角を現し、弟の稔弘は遅咲きだったが、「兄のおまけで入れた」という強豪の駿台学園高時代にインターハイで優勝、2014年のユース五輪で銀メダルを獲得。名門の日大へ進み、タイトルはなかったが、全日本での準優勝2度で主将まで務めた。大学卒業と同時にプロへ進むつもりで、兄と一緒に角海老宝石ジムの門を叩いたが、ハードパンチャーの宿命とも言える怪我に悩まされた。右手首のじん帯を断裂して2度手術したが、うまくいかず一度はボクシングの世界から離れた。
だが、ある試合が鈴木にプロ転向を決断させる。
2021年6月10日、後楽園ホール。兄が日本スーパーライト級王者の永田大士(三迫)に挑戦して10回TKO勝利でベルトを巻いた試合だ。
「かっこいいな。オレもやりたいな」
鈴木は、すぐに日大の先輩でアマチュア時代から指導を受けていた藤原トレーナーに連絡した。 「僕、プロでやれますかね?」
藤原トレーナーは鈴木の素質にほれ込んでいた。
「辞めるのはもったいない。もちろん魅力はパンチ力だけど、トータルでレベルが高く、実はディフェス能力が高い。簡単な階級ではないけれど世界を狙える器」
ちょうど藤原がWBO世界スーパーフライ級王者の井岡一翔(33)が所属する志成ジムのトレーナーになる話が進んでいたタイミングとも重なり「本当にお世話になった」と今でも感謝している角海老宝石ジムを円満に離れ、今年4月にB級でプロテストに合格した。
その時の注目は同期のジムメイトである”アマ13冠”の堤駿斗(23)に集まっていたが、“ボクシング通“の間では、鈴木のプロ転向も噂になっていた。
プロテスト前から元WBO世界スーパーフェザー級王者で先ほど引退した伊藤雅雪(31)と計12ラウンドのスパーリングをして“本気”にさせた。今回は、元WBOアジアパシフィック、日本スーパーライト級王者の岡田博喜(32、角海老宝石)とスパー。本人は「ジャブが当たらなかった」というが、単なるグリーンボーイではない。今回のタイ人の実力に?がつくことは間違いないが、世界記録を狙った衝撃の25秒TKOも偶然ではなく必然。裏付けのあるデビュー戦だったのである。
「まだプロの実感はない。これからは強い相手とやって技術戦でプロというものを味わってみたい。プロとしての理想は倒すこと。正直なボクシングをしてしまうので、倒すか、倒されるかになってしまうかもしれないんですけどね。負けてもいいんです。挑戦もせずに負けないよりも挑戦して負けを知ることで、課題を修正して強くなっていけばいい。まずは2年以内に日本、東洋、WBOアジアのどれか地域タイトルを取りたい」
現在、藤原トレーナーの紹介で、株式会社「イワサ・アンド・エムズ」の正社員として働いている。五輪の水泳会場の施工実績もある建築関係の会社で鈴木は現場にも出る。
社長の理解があり、練習時間への配慮をしてもらっていて「チャンピオンになることで会社に恩返しをしたい」との思いもある。
チャンピオンとは、もちろん世界だ。
だが、兄弟で世界王者を狙う?のステレオタイプの質問を投げかけると鈴木は笑って、こう正直な一発を返してきた。
「兄貴は、僕にとってよき理解者ですが、一緒に世界王者になろうというような話をしたことはないんですよね。でも、その気持ち、実は兄貴のほうがあるかも」
今後はスーパーフェザー級を主戦場にしていきたい考え。簡単に世界戦を組める階級ではないが、ライト級でベルトが取れず日本タイトル2階級制覇に失敗した兄と共に夢を追い求める。ボクシングの醍醐味であるKOシーンを見たければ、この新星の試合をチェックした方がいいのかもしれない。
(文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)