ロマチェンコと戦った中谷正義が「進退をかけた」1年ぶり再起戦で76秒戦慄KO勝利…村田諒太の“魂(後援会)”を継承し世界へ
プロボクシングの元OPBF東洋太平洋ライト級王者でWBC同級13位の中谷正義(33、帝拳)が13日、約8年5か月ぶりの登場となる後楽園ホールで約1年ぶりの再起戦リングに上がり、ライト級ノンタイトル10回戦で、フィリピン同級2位のハルモニート・デラ・トーレ(28)を1ラウンド1分16秒にKOで下した。中谷は昨年6月に米国で元世界3階級制覇王者のワシル・ロマチェンコ(34、ウクライナ)に日本人として初めて挑み、9回にTKO負けを喫していたが、進退をかけて臨んだリングで存在感を示した。ライト級の世界王者は、4団体統一王者となったデビン・ヘイニー(23、米国)だが、中谷は「勝てる」と豪語。引退する帝拳ジムの前WBA世界ミドル級スーパ―王者の村田諒太(36)の後援会を中谷が継承することも決まり、その魂を受け継いで世界を目指す。
修正した右ストレートとテーマにした左ボディで2度ダウンを奪う
まるでビルの2階から打ち下ろされたようだった。
左から右ストレートの一撃。22勝(14KO)3敗の強打者はヒザから崩れ落ちた。中谷の1m82の身長と、リーチの長さは、世界でも突出したサイズだ。 「打ち込みましたが、余り感触がなかった」
控室でのアップでは、右のストレートが浮いた感じがしていたが、元世界2階級制覇王者である粟生隆寛トレーナーから「もっと打ち下ろすといいよ」との助言を受けて修正していた。それをすぐに実践で使えるのが中谷の能力だろう。
立ち上がってきたところに左のボディブロー。体を折り曲げてキャンバス上でうずくまったフィリピン人は、そのまま10カウントを聞いた。 このフィニッシュブローこそ、再起戦でのテーマとしたパンチだった。
「上を効かせて次は下(ボディ)がセオリー。今回のメインテーマが丁寧に基本を考えたボクシングをすることだった」
昨年6月に米国ラスベガスで、北京、ロンドン五輪の連続金メダリストで世界で最速の3階級制覇を果たした“精密マシン“ロマチェンコと拳を交えた。2度ダウンを奪われ、9ラウンドTKOで敗れた。そのビッグマッチで気が付いたことがある。
「テクニックに差を感じた。ボディは当たったけれど、そこから何もさせてくれなかった。思いきり行くだけでは勝てないという壁を感じた。基本を見直して丁寧さを交えていかないとボクシングの幅が狭くなり頭打ちになる」
2019年7月に米国で、のちに3団体統一王者となるテオフィモ・ロペス(米国)を苦しめながらも判定負け、一度引退を発表したが、復帰を決意して、2020年12月に米国でライト級のホープとして呼び声の高かったフェリックス・ベルデホ(プエルトリコ)を壮絶な打ち合いの末、逆転TKOで下し、一気に米マーケットでの評価がアップした。ロマチェンコの再起戦の相手に指名されたが、「言ってみれば、この米国での3試合は、全部特攻。ただ全力を出していただけだった」との反省があった。この1年、ガード、ポジショニングなどの基本動作を徹底して見直してきた。「上のあとの下」も、その繰り返した基本のひとつだった。
「プレッシャーが凄くて緊張した。ほっとした」
リング上で中谷は、そう胸中を吐露した。
左ジャブを放ちながらスタートしたが、硬さが見えた。無理もない。中谷はこの1年ぶりとなる再起戦リングに進退をかけていた。 4月に36歳の村田が“最強”ゲンナジ―・ゴロフキン(40、カザフスタン)に敗れ、今月4日には、34歳のIBF世界スーパーフェザー級王者の尾川堅一が、英国の地での初防衛戦でワンパンチに沈んだ。帝拳では、中谷は、この2人に次ぐ年代。
「年代でいえば進退を考える年でもある。勝つだけではいけない。勝ち方にこだわらないといけないと、進退をかけた試合だった。ふがいない試合をして『中谷は終わっているやんけ』と言われるような内容ではダメ。まだいけるとアピールできる試合にしないといけなかった」
その壮絶な決意がプレッシャーとなって襲いかかっていた。