中日大野雄大”完全試合未遂”の価値
延長10回、打者30人目に悲劇が待っていた。二死を取ってから、3番の佐藤を迎え、ホームランだけは避けたい場面で、外角低めを狙ったストレ―トが逆球となり甘く浮いた。失投だった。打球は右中間を真っ二つ。大記録が途切れたと同時に得点圏に走者を進めるピンチとなった。
「初めてのヒットでツーベース。一打勝ち越しで相手が4番ですから」
ここで立浪監督は自らマウンドに足を運ぶ。
「ひとつのアウトを慌てずに取りにいけ。大山か、島田か、そこは任せる」
そう伝えた。
一塁は空いていた。大山と勝負するのか、それとも大山を歩かせ、次打者の島田と勝負するのか。その場合、代打が出てくる可能性もある。
大野は迷わず大山と勝負した。ストレートで詰まらせてセカンドフライ。大野は、ベンチを下がる際に大記録を逃した、その1球を悔やむかのように、一瞬だけ、自虐的な笑みを浮かべた。
2019年9月14日に同じく阪神戦でノーヒットノーランを成し遂げているが、完全試合となると、また記録の価値が違う。
実は過去に同じ“完全未遂“が一度だけある。2005年8月27日の西武ー楽天戦で、現在、西武2軍監督の西口文也が、9回を完全に抑えたが、楽天の先発、一場の力投もあって0-0の展開で延長戦に突入。西口は、延長10回に先頭打者の沖原にヒットを許して完全試合を逃した。この試合は、西武がサヨナラ勝ち。ちなみに西口と大野は誕日が9月26日で同じ。不思議な運命で結ばれているような出来事が17年の時を超えて2度繰り返された。
なぜ大野は完全未遂の快投を演じることができたのか。立浪監督は「ボールも走っていたしツーシームも非常によかった」と分析した。
10回二死までの29個のアウトの内訳は、三振が5、内野ゴロが12、内野フライ(ファウルを含む)が3、外野フライ(ファウルを含む)が9。キレ味抜群の宝刀ツーシームのほとんどがコントロールを間違うことなくヒザ下に落ちた。そして1回から9回まで146キロの変わらぬ球威をキープしたストレートが軸となった。29個のアウトの結果球の内訳でいえばストレートが11と最大でフォークが10、カットが5、ツーシームが3と続く。4番の大山には延長10回の第4打席を除いて、すべてフォーク勝負、ロハスに対してはすべてストレート勝負と、タイミングが合っていないと判断したボールを徹底して使うという木下のぶれないリードも光った。