井上尚弥が地元座間の交流イベントで明かした強さの秘密…異例の”大橋ジムミーティング”開催で「燃えるジム」に相乗効果を期待
イベント終了後には、約60人が集まったマスコミ向けの囲み取材があり、改めて目標を聞かれた。
「年内に4団体を統一したい。そのために、いろんな方が交渉し試合を実現できるように進めてくれている段階」
まったくぶれない。現在は「12月・国内」でWBO世界同級王者、ポール・バトラー(33、英国)との4団体統一戦が調整中だ。
兄がWBC世界同級王者ノニト・ドネア(39、フィリピン)を2ラウンドでキャンバスに沈めたアンダーカードで、日本スーパーバンタム級王者の古橋岳也(34、川崎新田)を判定でシャットアウトして”2冠”を手にした拓真も、「もう一度世界王者に返り咲くことが一番の目標。世界ランキングも一桁(WBCバンタム級3位)になっているので兄と同じ土俵でいけるように」と言う。
座間の佐藤市長は、4団体統一の暁には、座間でのパレード構想があることを明かした。 「引き続き座間市民の誇りになってほしい。コロナ禍もあるので、そこに配慮しつつできる限り調整しながら多くの市民の方と喜びを共有したい」
実は、井上兄弟がさらに強くなるための重要な出来事があった。前日、大橋ジム所属のプロ選手全員がジムに集まり、ミーティングを開いたのだ。初めての試みでテーマは「1人ひとりのプロ意識を高め、ジムを底上げすること」だった。
大橋ジムは、リングが2フロアにあり、定期興行も爆発的に増えたが、尚弥の世界戦のときのように大橋ジムの全所属ボクサーが集結して応援するわけではなく、情報も共有できておらず、どこかバラバラだったという。ミーティングでは、4回戦の選手から、全員が、自己紹介、次の試合の目標、ジムの環境に思うことなどを語り、本音をぶつけあった。
尚弥は、「ジムでの今はできていない挨拶の重要性」を訴え、拓真も「選手も命がけで戦っている。トレーナーも選手へのアドバイスにもっと取り組んだ方がいいんじゃないか」と意見したという。
これからは全員で所属ジム選手が出場する試合を応援することも決めた。
チャンピオンが輩出されたジムは活性化する。選手が集まり、そのチャンピオンの姿に触発されてジムの雰囲気も変わる。そこから第2のチャンピオンが出てくるようになれば、その雰囲気が伝統となり、やがて名門と呼ばれるようになる。やはり強いボクサーを作るのは環境なのだ。そういう緊張感や、全員が切磋琢磨して、より上のステージを目指す雰囲気作りの必要性を元3階級制覇王者で現在トレーナーの八重樫東、井上兄弟らが感じていて今回の大橋ジムミーティング開催に至った。
大橋ジムには、世界戦のチャンスを待つロンドン五輪銅メダリストでOPBF東京太平洋、WBOアジアパシフィックフェザー級王者の清水聡を筆頭に、元K-1王者の武居由樹、“ミライモンスター”松本圭佑、アマ10冠の大物ルーキー今永虎雅など、才能あるボクサーが多数所属しているが、”ポスト井上尚弥”、”ネクスト・モンスター”と評されるボクサーは、大橋ジムから出てこなければならない。
そのジムの風土が、尚弥の4団体統一の夢も、拓真の世界王者返り咲きの悲願をも後押しすることになるのだ。
「悪い雰囲気のジムで練習をやっても、のらない。後輩がいて、選手がいて、みんなで燃えるようなジムであれば活性化し、相乗効果も出る。いいミーティングだった」
尚弥は大橋ジムが「燃えるジム」に変わる手応えを感じた。
約30分の交流イベントでは、後援会の協力で全来場者に2人のオリジナルタオルが配られ、抽選でのサイン色紙プレゼント、順番に写真撮影にも応じていた。
井上兄弟が、どれだけビッグネームになっても、生まれ故郷座間を離れない理由にも、強さの秘密がある。
「横浜に練習に行っても、東京で祝勝会があっても、生まれ育った座間に帰って気持ちをリセットするのが一番大事なこと。小学1年からボクシングをスタートしたところ。次の日に朝から(座間を)走ると気持ちが初心に戻る。だから座間に住んでいる」
尚弥がそう言えば、拓真も「引退しても座間に住んでいると思う。どこにいっても帰りたくなる街。それが座間」と言い切った。
4団体統一へ向けて揺るがない土台。
座間での交流を終えて、2人は、こんなメッセージを未来ある子供たちへ向けて発信した。
「僕たちを見てボクシングに興味を持った子や、他スポーツをしている子も、こういう機会で、また頑張ろうと思ってもらえれば、僕も目指していく目標に向かって頑張っていく気になる」(尚弥)
「つらいことがあってもコツコツと頑張れば、結果がついてくることを僕が結果を出して伝えられたらいい」(拓真)
尚弥は8月からスパーリングを再開する予定だ。