井上尚弥が12月予定の4団体統一戦を「早期KO決着にならない」と語った理由…記者団には「アレ?アレ?はやめて欲しい」と注文
バトラーのキャリア2つの黒星のひとつは、井上が英国グラスゴーに乗り込んで強烈なボディショットで悶絶させ2ラウンドTKO勝利したエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)に判定負けを喫したもの。ちなみにこの試合は、IBFの同級王座決定戦で、バトラーが計量オーバーしたため、ロドリゲスが勝った場合のみタイトル獲得という条件下で行われた。
そのバトラーに勝ったロドリゲスを2ラウンドで倒したのだから、井上がバトラーを同じように早いラウンドでKO決着しても不思議ではないが、報道陣を冗談半分でジロっとにらみながら意外な注文をした。
「たまたまドネア戦は早いラウンドで倒したが、ボクシングは簡単じゃない。5ラウンドを過ぎるとアレ?アレ?という雰囲気を出すのはやめて欲しい。(リングサイドの)記者さんの席からビシビシと伝わってくるので(笑)」
ボクシングはジャンケンみたいなもので、単純に井上<ロドリゲス<バトラーの図式で、すべてがかたづけられるわけではない。井上は、ここまで20試合あるKO勝利のうち9試合を3ラウンド以内に終わらせているが、早期KOは狙ってやれるものではない。相手が前に出てこなければ噛み合わないし、逃げる相手をつかまえるのはむずかしい。それをいとも簡単に、まるで計算したかのようにやってのけるところに井上がモンスターと呼ばれる理由があるのだが、特にバトラーのような足を使って動く相手を「ムキになって倒しにいくと空回りしてしまう」危険性がある。
あのドネア戦でも1ラウンド終了間際に強烈な右のカウンターでダウンを奪っているが、そのインターバルで、あえて「2ラウンドは(勝負に)いかないから」と真吾トレーナーに告げて、冷静に理詰めで進めて2ラウンドに料理している。
「もしバトラーが“判定勝利します”と言ったら、絶対にポイントは取られない。(ファンに)何を見せるべきかを考えて、ちゃんと作戦を立て倒すための準備をしなきゃいけない」
恐るべき自信の裏返しである。
「バトラー戦に課題はない。課題を克服するより、バトラーにどうボクシングをあてはめていくかを考えるだけ。バトラー戦用の井上尚弥を作っていく」
4団体統一を控え、井上は、もはやその領域に入った。
「4団体統一をしたら(バンタム級で)やることはない。逆にスーパーバンタム級に上げて挑戦した方が自分も楽しい」
バトラー戦を終えると来年はスーパーバンタム級へ上げて4階級制覇を狙う。収録ではバトラーの映像に続けて、WBAスーパー,IBF世界スーパーバンタム級王者のムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)と、WBC、WBO世界同級王者、スティーブン・フルトン(米国)の映像も流された。
「不安はありますよ。数キロだが、その差はすごい差。フィジカル、耐久性も変わってくる。楽しみもあるが不安もある。でも不安があるからこそ突き詰めていける。もっといいパファーマンスをできるんじゃないかという自信もある。今のままでスーパーバンタムに行く。何年かは(その階級で)やっていくしその中で段階的に積みあげていけばいい」
4団体統一の先に待ち受ける未知の世界の話をする井上は、どこか楽し気で、2人の王者のどちらかに「理想はすぐに挑戦したい」という。
すでに12月のビッグバウトに向けて再スタートを切っている井上は、今月中には「バトラーKO計画」を作りあげるためのスパーリングに入る予定だ。
(文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)