今日E-1選手権開幕!宮市亮が語る9年9か月ぶり代表復帰への思い…10代の欧州挑戦、引退危機の膝手術を乗り越えて「自分のためよりチームのために何ができるか」
「3度目のひざの前十字じん帯損傷のときに、ドイツでこのまま手術したら、もしかしたら引退しなければいけないかもしれない、という話を聞かされたんですね。ちょうどザンクトパウリとの契約も切れる段階で、このまま自分のキャリアが終わってしまうんじゃないか、と考えた時期があったんですね。プロ選手としてプレーできる、というのは当たり前じゃないんだなと身を持って体験してから、毎日に感謝できるよう になれました。試合に出られなくても、サッカー選手をやれているだけで幸せなんだと」
どん底を突きつけられた状況を前にして180度変わった思考回路は、宮市にポジティブな変化をもたらした。ヨーロッパへわたった直後に比べて、宮市は「いろいろな経験をへて、あまり先を見なくなりました」と言い、こう続けた。
「本当に一日一日を生活できるというか、歩けなくなった直後に再び歩けるようになった喜びなどを含めて、目の前の一日一日に感謝できるマインドになりました。10代のころは『5年後、10年後にこうなっていたい』とよく考えていましたけど、いまは次のトレーニングや次の試合とかを、より現実的に考えるようになりました」
ザンクトパウリでの3年目となった2017-18シーズンは、公式戦にほとんど出られない日々が続いた。しかし、努めて前を向く宮市の復活を見すえて、チームは長期離脱中の2017年8月に契約を1年間延長した。2018-19シーズンはリーグ戦で25試合に出場して5ゴールをマーク。2019-20シーズンも29試合でピッチに立った。
50mを5秒台後半で走破するスピードを見込まれ、2019-20シーズンにはキャリアで初めて右サイドバックでもプレー。試合に出られる喜びをエネルギーに変える宮市の思考回路は、昨夏に加入したマリノスでも力強く脈打っている。
コンディションがなかなか整わなかった昨シーズンは、J1リーグ戦でともに途中出場でわずか2試合、計41分のプレー時間に終わった。迎えた今シーズン。移籍後初先発を果たした3月2日のヴィッセル神戸戦が、契機になったと宮市が言う。
「間違いなく神戸戦がターニングポイントになりました。あそこでチャンスをもらえて、結果は出せなかったけど、自分なりのパフォーマンスを見せられた。怪我に関しては、自分一人ではここまで来れなかった。マリノスに帰ってきてからメディカルスタッフの方に尽力して頂いて怪我なくシーズンを送れているし、出場機会も昨年と比べて増えてきて、リズムが出てきたという面でも怪我をしにくくなってきているのかな、と」
すでに15試合に出場した今シーズンのプレー時間は624分に到達。5月18日の浦和レッズ戦でJ1初ゴールを決めると、主に後半途中から出場し、マリノスに前への推進力を与える役割を託されたなかで2つのゴールを追加した。
J1リーグ戦の首位を快走するマリノスで、それぞれが個としても輝きを放っているとして、森保一監督(53)は最多となる7人を招集した。
「野心を持ちすぎた10代のころを考えると、メンタルコントロールのところで自分は気負いすぎると上手くいかない。チームのために何ができるかが何より大事だと思うし、自分のためにというよりも、チームのために何ができるか。試合に出る出ないに関係なく、このチームでタイトルを勝ち取りにいくために自分ができることに最大限集中したい。そうすれば、自ずといろいろな結果が後からついてくるはずなので」
マリノス勢の一人として9年9ヵ月ぶりに代表に名を連ねた宮市は、父親の水沼貴史さんとの親子での代表として、32歳にして初招集されたFW水沼宏太とともに大きな注目を集めた。それでも、カタールワールドカップ代表入りへ、ほんのわずかながらでもチャンスがあるE-1選手権の3試合へ、これまでと同じく気負わずに臨む。
「サッカー選手としてこれだけ怪我を繰り返してきたのは誇れることではないし、むしろ恥ずかしいぐらいなんですけど。ただ、怪我で苦しんでいるアスリートや、いまは怪我でサッカーができない子どもたちや高校生、大学生もすごく多いと思います。でも、リハビリに取り組んでいる時間が報われるときが必ず来るはずなので。引退宣告をされたぐらいの選手が日本代表にまた入れるチャンスも、あきらめなければ必ずあるぐらいなので、そういった方たちを勇気づけられるようなプレーをしていけたらと思う」
親交のある森保ジャパンのキャプテンのDF吉田麻也(33、シャルケ)からは、何度も励ましの言葉をもらってきた。今回は特に宮市の心に響いたという。
「選ばれたことに満足せず、ここからもっと自分を出してほしいと言われました」
宮市が出場するチャンスがあるとすれば4-3-3の左ウイングか。いま現在の自分にできる最大限のプレーを心がけながら、それでいて日の丸にかける熱い思いは10年前と変わらずに、不死鳥のように蘇った宮市は香港戦のキックオフを自然体で待つ。
(文責・藤江直人/スポーツライター)