名門帝拳の「最も世界に近い男」“3冠王者“岩田翔吉は”ネクスト井上尚弥”級の逸材か…WBO世界Lフライ級王者に照準!
史上5人目となる3冠王者がプロボクシング界に誕生した。快挙が生まれたのは2日の後楽園ホール。ライトフライ級のOPBF東洋太平洋、日本、WBOアジアパシフィック王座決定戦の“3冠戦”が行われ、日本王者の岩田翔吉(26、帝拳)が東洋太平洋王者の堀川謙一(42、三迫)に3―0の判定で勝ったのだ。岩田は、スピード、パワー、手数で堀川を圧倒して危なげなくポイントを稼いだ。8ラウンドに堀川をダウン寸前に追い込む怒涛の猛ラッシュ。ベテランのテクニックとプレッシャーにペースを乱され判定決着となったが、これで無敗の9連勝。岩田は「最も世界王者に近い男」と言われている。早大出身で米国デビュー。名門帝拳がエリート育成している岩田は、バンタム級の3団体統一王者、井上尚弥(29、大橋)を追う“ネクスト井上”級の逸材なのか?
43歳のベテラン東洋太平洋王者の堀川に3-0判定勝利
最大8ポイント差をつけての判定勝利がアナウンスされても岩田に笑顔はなかった。
「満足していません。やっぱり倒したかった」
8ラウンドを終えた時点での公開採点が「78―74」が1人で「79-73」が2人。逆転KOを狙うしかなくなった堀川は9ラウンドから前へ出てきたが、危ないシーンがあったわけではなく岩田に勝利の確信はあったのだろう。なおさら仕留め切れなかったことが悔しい。
42歳の東洋太平洋王者・堀川と2連続TKO勝利中の26歳の日本王者・岩田との3つの地域タイトルの“統一戦”は、岩田が世界挑戦切符を手にするための世代交代マッチと見られていた。勝敗ではなく、その勝ち方に注目が集まっていたが、結果は、岩田が“ボクシングの怖さ“を大先輩に教えられる形になったのである。
岩田は1ラウンドからスピードと手数で圧倒した。左ジャブだけでなく左のボディブローやアッパー、意表をつく飛び込んでのパンチなどを交えてバリエーション豊かな攻撃で序盤を支配した。堀川は、ほとんど手を出してこなかったが、その心理も戦術も想定内だった。
「1ラウンド目から相手が僕の一発を警戒することはわかっていた。手数を出しながら一発よりもコツコツと細かく当てていこうと。その中で強く打つタイミングを見計らっていた」
だが、4ラウンドから堀川が前に出てプレッシャーをかけてくると岩田の戦い方が一変した。
「ロープに詰められることを避けた」
堀川のペースに巻き込まれることを嫌い、足を使いサークリング。一撃を決めるタイミングを見失った。
それでも「どこかでエンジンを一段階上げたかった」と、8ラウンドに右のストレートをヒットさせ、堀川が一瞬、ぐらつくと、すぐさま左フックを打ち込み、ロープを背負わせて猛ラッシュを仕掛けた。スタミナ切れも無視した勇気ある連打。堀川を追い込んだが、逆にボディブローを返され詰めきることができなかった。
「もう一発で倒れるところで、のらりくらりと、うまく当てられなかった。堀川さんは、百戦錬磨。効いたパンチはなかったが、意地を見せてきた。頭の位置やポジションを変えられ、ごまかされた。勉強になった」
早大時代から当時日本王者の堀川のスパーリングパートナーに呼ばれ、何度も拳を交えた。お互いに手の内を知り尽くしている。岩田にとってすべてが想定内ではあったが、59戦と9戦のキャリアの差を“勢い“で潰してKO決着に持ち込むことはできなかった。
「リスペクトする堀川さんを超えたい気持ちがあった」という岩田は、リング上で「こういう形で再会するとは思っていなかったです」と感謝の意を伝えた。堀川は「ボコボコにやられたよ。ありがとうよ」と言葉を返して完敗を認めたという。
これで9戦9勝。現在、WBC、WBAで2位、WBOで3位にランクイン。もちろん次のターゲットは世界である。
「次に世界戦をやるつもりで練習をやってきた。今日の内容的にはスカッといった感じではないが、凄い自信はある。12ラウンドをやれた経験が大きい」
岩田は、2021年12月に谷口将隆(28、ワタナベ)がWBO世界ミニマム級タイトルを獲得して以来となる“世界に最も近い男”と言われている。
リングサイドで応援した前WBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太(36)が、名門・帝拳を支える次の看板ボクサー候補として、その名前を挙げたこともある。ロンドン五輪の銅メダリストでOPBF東洋太平洋フェザー級王者の清水聡(36、大橋)も同じく”世界に最も近い男”ではあるが、激戦区のフェザー級での世界戦実現は簡単にはいかない。
元々は、故・山本KID徳郁氏の総合格闘技のジムへ通って格闘技を始めたが、ボクシングに興味を持ち、Uー15大会で優勝するなど、頭角を現し強豪の日出高に進むと高校総体では、準決勝でのちの元3階級制覇王者、田中恒成(27、畑中)、決勝で、後々、元WBC世界バンタム級暫定王者となる現WBOアジアパシフィック&日本スーパーバンタム級王者の井上拓真(26、大橋)という2人のライバルを打ち破って優勝している。早大に進み、プロ転向してからは、帝拳が英才育成プランを用意。2018年に米国でデビューするという異色のコースから、ついに3冠王者までステップアップした。
「次に(世界を)取りたい気持ちはある」と岩田は本音を明かす。
この階級には、リングサイドで観戦していたWBC王者の寺地拳四朗(30、BMB)、WBAスーパー王者の京口紘人(28、ワタナベ)と2人の日本人世界王者がいる。岩田は、拳四朗がダイレクトリマッチでKOでベルトを奪還した3月の矢吹正道戦を担当トレーナーの元2階級制覇王者、粟生隆寛と一緒に京都まで出向いて観戦している。
岩田自身は「粟生さんが持っているWBCのベルトはカッコいいが、世界王者は、子供の頃からの夢。チャンスがあるなら、どのベルトでもやりたい」と言うが、現在、水面下では、拳四朗と京口の統一戦の交渉が進んでおり、その試合が実現しなかったとしても、WBCは、6月に挑戦者決定戦を行ったばかりで、岩田がすぐに割り込むことは難しい。
ターゲットは、WBO世界同級王者のジョナサン・ゴンサレス(31、プエルトリコ)だ。ゴンサレスは、先日、マーク・アンソニー・バリガ(29、フィリピン)と防衛戦を行い、3-0判定で勝利したが、ダウンシーンもなく圧倒的な強さを示したわけではなかった。フライ級時代の2019年8月には来日して当時のWBO世界同級王者の田中恒成に挑戦して7回にボディでキャンバスに沈められている。本来はライトフライ級が適正階級なのだろう。異名は「ボンバ(爆弾)」だが、31戦26勝(14KO)3敗1分け1無効試合の戦績が示すように、一発の怖さはなく、もし挑戦が実現すれば岩田に世界奪取のチャンスはある。 粟生トレーナーも「(世界戦の)話があれば準備はできている」と断言した。