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急逝したチームOB工藤さんに捧げる広島の初V。現役時代の背番号「9」をDF塩谷司、「50」は柏時代の1年後輩の控えGK川浪吾郎が掲げた(写真:森田直樹/アフロスポーツ)
急逝したチームOB工藤さんに捧げる広島の初V。現役時代の背番号「9」をDF塩谷司、「50」は柏時代の1年後輩の控えGK川浪吾郎が掲げた(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

急逝した元チームメイト工藤壮人さんに捧げる広島のルヴァン杯初優勝…「今日の僕たちは工藤と共に戦った」

 リードを許したまま迎えた後半34分。セレッソの守備の要、DFマティ・ヨニッチ(31)が一発退場となる。FWナッシム・ベン・カリファ(30)との小競り合いに対して提示されたイエローカードが、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の介入と、山本雄太主審(39)によるオン・フィールド・レビュー(OFR)をへて、レッドカードに変わった瞬間に試合の流れも変わった。
 迎えた後半アディショナルタイム。右コーナーキックからカリファがヘディング弾を放ったシーンも、VARからOFRをへて、ペナルティーエリア内でセレッソのDF鳥海晃司(27)のハンドが認定された。これをキプロス代表のソティリウがゴール右隅へ確実に決めて追いついた。
 声をからしながら戦況を見守っていた青山の脳裏に、ひらめくものがあった。
「何なら最後までの間に、もう1点というのが間違いなくありました」
 予感は現実のものとなる。同点から5分後に再び獲得した右コーナーキック。ニアに佐々木が、真ん中にDF荒木隼人(26)が飛び込んだボールは頭上を越えて急降下して、走り込んできたソティリウの右足にヒット。セレッソの守護神キム・ジンヒョン(35)が一歩も動けない逆転弾となった。
 直後にルヴァンカップ初優勝を告げる笛が鳴り響く。佐々木が、コーナーキックを担ったルーキーのMF満田誠(23、流通経済大卒)が人目をはばからずに涙腺を決壊させる。試合中はベンチに置かれていた、背番号「50」と「9」が刻まれた工藤さんの広島時代のユニフォームを手にしながら、空へ向かって誇らしげに掲げる選手たちもいた。
「チームのみんなも大きな思いを抱えながら、しっかりとプレーしてくれた。ただ、本当に今日は彼の力をもらえたのかなと。こんな逆転劇はなかなかないと思うので」
 佐々木が死闘を彼、すなわち工藤さんに捧げれば、青山も「彼の――」と続いた。
「彼の意思はチームで絶対に引き継いでいく。それができなきゃ広島じゃない」
 リザーブで終えた選手、ベンチに入れなかった選手たちを含めて、チーム全体の頑張りで悲願の瞬間を手繰り寄せた。それでも、歓喜の後には偶然とは思えない数字が残った。
 3度のリーグ戦優勝を誇る広島はカップ戦タイトルには無縁で、天皇杯と合わせて、今回のルヴァンカップがJリーグ発足後で「9」度目の決勝だった。VARとOFRで若干プラスされた後半アディショナルは、当初は「9」分が表示されていた。
 そして、柏からバンクーバー、広島、オーストラリアのブリスベン・ロアー、そして宮崎で工藤さんがプロの矜恃を反映させてきた背番号も「9」だった。サッカーの面白さと何かに導かれた縁も残しながら、初開催の1992年から30回目の節目を迎えた記念大会は幕を閉じた。
(文責・藤江直人/スポーツライター)

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