挑戦者が計量失格で実施された異例のWBO世界ミニマム級戦に何があったのか…王者の谷口将隆が11回TKO勝利した舞台裏の全真相
計量で波乱のあったプロボクシングのWBO世界ミニマム級タイトルマッチが22日、後楽園ホールで行われ、王者の谷口将隆(28、ワタナベ)が挑戦者の同級5位、石澤開(25、M.T)を11回2分29秒TKOで下し初防衛に成功した。前日計量で挑戦者が1回目でリミット(47.6キロ)から2.5キロオーバー。2回目も200グラムしか落ちず体重超過で失格となった。WBO、JBC、両陣営が協議の上で、当日の午後5時30分時点の再計量でリミットから3キロオーバーの50.6キロ以下であれば世界戦を実施することで合意。谷口にとって勝てば防衛、負ければ王座空位の厳しい条件での世界戦となった。石澤が再計量をクリアし著しく公平性に欠ける状況だけは避けた状態で試合が行われ、心配された事故もなくファンを納得させる内容で無事に終わった。試合後、谷口は「終わったらノーサイド」と、プロとしてあるまじき行為をした敗者を労い、石澤は「(減量が)間に合わない時点で引退しようと決めていた。今後の進退は考える」との重い決意を語った。この世界戦は行うべきだったのか。そして舞台裏では何があったのか。
「試合が終わればノーサイド」
最後は左ストレートだった。
11ラウンド。谷口の強烈な一撃に、挑戦者の動きが、一瞬、止まったことを確認すると的確なレフェリングに定評のある染谷レフェリーが間に入ってTKOを宣告した。ダウンシーンもなく石澤は立ったまま。戦意は失っていなかったが、インターバルで染谷レフェリーから「打たれ過ぎているぞ」と注意を受けていた石澤は、納得した表情でその宣告を受けとめた。
採点表を見直すと王者が失ったラウンドは3回のひとつだけ。まさに完勝で11回にフィニッシュした谷口だが「最後のパンチは覚えていない。余裕はなかった」と真顔で言った。
2019年9月以来の再戦。その試合は谷口が判定勝利しているが、5ラウンドに一瞬の隙を見せてダウンを奪われている。今回も終盤にヒヤりとする相打ちがあり最後まで油断はできなかったという。
谷口のテーマは「クール」だった。2、3ラウンドと石澤がラウンドの最初の時間に強引に前へ出てきたがその攻撃を前に出て潰した。懐に入ってダッキングと肩の細かな動きで空振りさせ、パーリングで腕を抑えこんだ。 「一撃があることがわかっていた。集中しながら、前ふりの軽いパンチをしっかりと見た。変に足を使わなかった」
当初は、この試合のテーマを「脱力」としていたが、石澤の計量失敗を受け「クール」に変更した。コンディションが万全ではない石澤が、いちかばちかの速攻を仕掛けてくると読んでいたのである。6ラウンドに入ると谷口が空間を支配した。
特に左ボディと右の打ち終わりに合わせて打ち抜く左ストレートのカウンター、懐に入ったところからの右アッパーが効果的で石澤にダメージを与えていく。体の位置を「マタドール」と自負するステップワークで常に変えながらだ。
石澤は体をよじってヒジでブロックするほど左ボディを嫌がり、後半は、それをフェイントにも使えた。減量苦の相手への鉄則のブローではあるが、実は、石澤が日本タイトルを奪取した1月の森且貴(大橋)戦の映像を分析して弱点を見つけ綿密に用意していたパンチだった。
「スタイル的にパンチを振ってからワンクッション置いたときに止まるクセがあった」
前回の対戦から2年7か月。谷口は進化と王者としての格の違いを見せつけた。
リング上で石澤は、谷口に「すみませんでした」と体重超過のプロとしてあるまじき失態を謝罪した。
「これが最後。これからは謝らなくていいよ。試合をすればノーサイド」 谷口はそう優しく返した。
「ペナルティを受けるだろうし、それで禊ぎは終わり。彼も昨日から思いつめたでしょうしね」と敗者の気持ちを思いやった。