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ゴロフキンと村田諒太
ゴロフキンと村田諒太

明日決戦!村田諒太に“第三の敵“出現も”史上最強のメンタル”でゴロフキンに勝つ…名著「菊と刀」に学んだ日本人の強み

プロボクシングのWBA世界ミドル級スーパー王者、村田諒太(36、帝拳)とIBF世界同級王者、ゲンナジー・ゴロフキン(40、カザフスタン)の歴史的ビッグマッチ(9日・さいたまスーパーアリーナ)の公式記者会見が7日、両選手が出席して都内で行われた。7年ぶりの再会となった2人は、なごやかなムードでグータッチしたが、当日のレフェリーを過去村田の試合を2度裁き相手のダウンを認めないなどの不可解なレフェリングが問題となったルイス・パボン氏(プエルトリコ)が務めることになった。ただでさえ村田にとって厳しい戦いに“第三の敵“が出現したことになるが、村田は、ある1冊の名著との出会いをきっかけに手にした“史上最強のメンタル“を武器に世界的快挙に挑むことになる。

ロスでの試合観戦以来7年ぶりの再会

新型コロナの感染予防対策のため、報道陣の人数は制限され、参加者全員の抗原検査が義務づけられた。2人の着席位置と記者団の机も10メートルの間隔がとられる異例の厳戒態勢での公式会見。先に村田が着席すると、続いて紹介されたゴロフキンは、親しみをこめて村田の肩を叩いて少し離れた席についた。

2人は7年ぶりの再会となる。2015年5月に米ロスで行われたゴロフキン対ウィリー・モンローJr(米国)のタイトル戦を村田が観戦した際に挨拶を交わして以来だ。その前年にビッグベアでのゴロフキンのキャンプに招待されていた村田はスパーリングで拳を交えている。その頃は、まだ未来の世界王者候補だった村田は、8年の歳月を経てベルトを巻きゴロフキンのステージにまでたどり着いた。そしてまた今日8日に40歳となるゴロフキンも、そのキャリアでの黒星は、サウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)との再戦の0-2判定負けの1敗だけで、再びIBF王座に返り咲き、ミドル級世界最強の称号を錆びつかせないまま異国の地にやってきた。

再会の印象を聞かれたゴロフキンは関係者に感謝の意を伝え「日本で試合のできることを名誉に思い、村田に会えタイトル戦のできることに感動している。時間はかかったが私も彼もいい準備ができた。良い試合 になることを約束します。絶対に見逃してはならないと言っておきます」と優しい口調で話すと、村田も同じく新型コロナ禍で1度延期になった試合が実現したことへの礼を厚く述べ、「素晴らしい試合をお約束します」と言葉を重ねた。  互いに相手へ尊敬の念を抱き、リング外に敵意も持ち込まず、トラッシュトークなどもない。ボクシングは決して野蛮な暴力ではなく、究極まで鍛えあげた肉体と技術、そして魂をぶつけあう世界最高のスポーツであることを象徴するような2人の応答だった。

会見場には海外から招いたレフェリー、ジャッジらオフィシャルの面々も顔を揃えた。だが、その中に気になる人物がいた。“疑惑の判定負け“となった2017年5月のアッサン・エンダム(フランス)との世界戦の第1戦、リベンジを果たし王座に返り咲いたロブ・ブラント(米国)との第2戦と2度にわたってレフェリーを務め不可解なレフェリングを続けたパボン氏が、このビッグマッチのレフェリーを務めることになったのだ。

“エンダム1“では相手がロープをつかんでダウンを免れているのにダウン判定をせず、”ブラント2”でも相手が両手でロープをつかんでダウンを免れたのを見逃し、ブラントが棒立ちになった時に、両者の間に入って試合を止めるそぶりを見せながらも続行させるという不可解なレフェリングをして村田を困惑させた因縁のレフェリー。“第三の敵“である。

ブラントに2回TKO勝利した試合後に村田は、「え?ここで止めへんの?またか?と思いましたよ。オレのことよっぽど嫌いなんっすかね」と冗談を交えながらも不満を爆発させていた。  だが、レフェリー、ジャッジの人選は、WBA、IBFの決定事項であり、パボン氏はWBAの審判委員長の重鎮。昨年3月にはスーパーフライ級のWBA、WBCの2団体統一戦のファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)対ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)の注目カードを裁くなどしており、今回のビッグマッチにふさわしい人物として送り込まれたと見られる。

重要な局面で、また村田に不利なレフェリングをされる懸念は消えないが、戦う相手はレフェリーではない。そこに左右されない試合をすればいいだけの話。本田明彦会長も「関係ないよ。(エンダム戦の疑惑判定負けも)彼が悪かったわけじゃないからね」と、一笑に付した。実は、村田には外的要因に左右されないメンタルがある。新型コロナの感染予防対策のため、3月からホテルにこもって調整を続けている村田は、一人の時間を有効に使い、趣味の読書を通じ“最強のメンタル“を作りあげたのだ。

スポーツ雑誌に「読書感想」のコラムを持つほどの読書家で知られ、まるで哲学者のような思考を持つ村田は、今回ホテルに何冊かの本を持ち込んだ。自分で選ぶ本には偏りが出るため、知人が薦める本なども乱読するスタイルだが、熱心に読み込んだのが「菊と刀」という名書である。女性文化人類学者のルース・ベネディクト氏が、過去の文献を調査して、鋭く分析した日本人論で、1946年に原書が刊行され、その2年後に和訳版が出版された。以降、海外から客観的に見た日本人研究の代表作として読み継がれてきた名書で、「恩」や「義理」といった日本人特有の文化が紹介される中で、村田は「恥の文化」という部分に共感を得たという。 「日本人は嘲笑されると怒る、恥をかきたくない。だが、それがなければ許容することができる民族だと。なるほどと思うことがあったんです。実は、疑惑の判定で騒ぎになったエンダムに負けたとき悔しくなかったんです。あの判定で外国人ならめちゃくちゃ怒っているでしょう。でも僕は怒らなかった。日本人らしい文化。僕自身が、あの試合内容に恥ずかしいと思っていなかったから負けすら認めることができたんです」  村田は、“疑惑の判定“で世界初挑戦に失敗したエンダム戦の心理を「菊と刀」の分析に重ねた。恥じない試合をすればいい。そこに可能性が拓ける。いや恥じない試合をするためのギリギリの努力が、それ以上に重要なのだ。

村田は、今回、「菊と刀」から改めて“日本人の強み“とは何かを学んだのである。「1ラウンド勝負」「インファイト勝負」を宣言した村田にとってゴロフキンの圧力に対抗して前へ出続ける”勇気”が勝敗を分ける。自覚した日本人特有のメンタルが、そのゴロフキンの”壁”を破る追い風となってくれるはずだ。 「延期されたことで実戦練習が長くでき、いい準備ができた。それが明後日リングで出るかどうか、神のみぞ知る。今(成果を)出しますと約束できることじゃない」  自信過剰になることもなく、不安に怯えることもない。理想的なフラットなメンタルを表すようなコメントで、村田は公式会見を締めくくった。

会見の最後にツーショットの写真撮影が終わると、どちらからともなく拳を出した。グータッチ。互いににこやかな笑顔を浮かべた。今日、都内で両選手の最後の抗原検査が行われ、12時から前日計量。それがクリアされた時点で困難を極めた新型コロナ禍での夢のビッグマッチは9日のゴングを待つだけとなる。

(文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)

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