空前絶後のビッグマッチ天心vs武尊…「勝利イメージ見える」天心か、メイウェザー戦略の武尊か…勝つのはどっちだ?
3ラウンド+延長1ラウンド、公開採点のルールはどうだろう。今回は公平を期すことに最大の配慮がされたことがよくわかる。ジャッジは5人制で、RISE、K―1側から1人ずつ出され、残り3人は中立の立場の人選。そのうち3人が優勢と判断したものが採用され、しかも毎ラウンド公開される。延長ラウンドは必ず優劣をつけるマストシステムが採用されて白黒がつく。判定基準は(1)ダウン数、(2)相手に与えたダメージ、(3)クリーンヒット数、(4)積極性の順となることも発表された。
プロボクシングの公開採点は、世界ではWBCだけが採用しているが、潮流は廃止の方向にあり、世界に衝撃を与えた先日のプロボクシングの井上尚弥(大橋)とノニト・ドネア(フィリピン)の世界バンタム級の3団体統一戦でも、当日になってIBF側から物言いがつき公開採点が中止になった。公開採点廃止の潮流が生まれたのは、圧倒的にポイントで有利な側が、安全策で逃げ切りをはかり、ファンからすれば、つまらない試合が続出したからだ。ちなみに井上尚弥も、「公開採点はない方がいい」と、公開採点に反対派。ラウンド数の短いキックとは比較は難しいが、今回は、延長戦では必ず優劣がつく完全決着ルールであり「逃げる」ことは敗北を意味することになる。スピード&テクニックの天心vsパワー&アグレッシブの武尊という展開になることは間違いない。
公開採点がプラスに転じるのは天心だろう。2ラウンド終了時点で優勢だった場合、消極姿勢を見せずに逆転KOのリスクを避ける戦い方ができるだけの戦術性も技術もある。派手な技で武尊が逆転の一撃を繰り出す時間を潰すというタイムマネジメントもできる。ただし、公開採点を味方につけるには、確実にスタートからサウスポースタイルの特性を生かしたスピードと距離で武尊を圧倒しなければならない。一方の武尊からすれば、KOを狙うには、1、2ラウンドまでということになる。
実は、この1年間、徹底したサウスポー対策を練ってきた武尊は、天心がそのキャリアで唯一KO負けした2018年大晦日の元5階級制覇王者のフロイド・メイウエザー・ジュニアとのボクシングルールのエキシビションマッチを参考にしているという。もちろん、あの試合は明らかな体重差があり技術だけが明暗を分けたわけではないが、天心は、1ラウンドに3度ダウンを奪われた。そのうち2度は、メイウェザーの左フックを浴びたものだった。対サウスポー対策で重要なのは前の手、前の足の使い方と言われている。武尊のフックは、独特のタイミングと角度があり、ビデオで研究しても、初見では避けるのが難しいとされる。今回はボクシングルールではなくキックだが、武尊は、そこにヒントを見出したのかもしれない。
武尊は気がはやるとガードが甘くなるが被弾覚悟で勝負するだろう。
だが、一方の天心も、「ボクサーになる気持ちは一回消した。ゼロにして蹴り込んだ。どっか片隅にあるとよくない、意識してしまう」とボクシング練習は封印した。メイウェザ―戦は、もとより、ボクシング転向を見据えてスタイルが変化してきた、ここ数試合は、参考にならない。
「すべてにおいて(勝利イメージが)見える。1、2週間、研ぎ澄まされている。これで負けたらしゃあないねという感じ。何パターンも技を用意している。那須川天心として最後やりきりたい」
強すぎて対戦相手不在というモチベーションの維持に苦労してきた天心は、今回、武尊という好敵手との対戦が決まり、忘れていた格闘家の本能が蘇った。
「久々にワクワクしている。ずっと迎え撃つ立場、追われる立場だったし勝ってもうれしくないことばかりだった。この感じは、久々だしオレの中での人生決着。それが芽生える最後の瞬間」
そして6月19日が父の日であり、ここまで二人三脚で歩んできたトレーナーの父・弘幸氏に感謝の気持ちを伝えることができる偶然がさらに天心の戦う理由を増やした。
「勝って親孝行してやろうと思う」
一方の武尊の覚悟は壮絶なものだった。
「試合は、命の取り合い。負けたら死と一緒。試合後の予定は何も決めていない」
プロボクシング界の重鎮がこんな予想をしていた。
「KO決着なら武尊。判定にもつれこんだら天心」
筆者も同じ結論だが、熱狂の舞台が、2人にどんな力を与え、格闘技の神様は、どんな衝撃のドラマを用意しているのだろうか。
(文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)